30周年『古畑任三郎』マニアほど驚いた“お約束破り”事件3選
古畑が推理を間違える!
2本目に紹介したいのは、歌舞伎役者・澤村藤十郎が出演した1996年放送の2ndシーズン「動機の鑑定」。毎回、鋭い推理で犯人の仕掛けたトリック、動機まで見事に暴いていく古畑だが、「動機の鑑定」では、珍しく推理を誤るシーンが出てくる。 古美術商・春峯堂の主人(澤村)は、美術館館長・永井(角野卓造)と結託し、美術館が所有する「慶長の壷」を自らの鑑定で国宝に仕立てあげ、さらなる金儲けを狙っていた。ところがその壺は人間国宝の陶芸家・川北百漢(夢路いとし)が本物の慶長の壷を手に入れた後にわざわざ作った贋作で、春峯堂と永井に掴ませたものだった。川北はそのことを春峯堂の企みとともに新聞社にリークし、彼を業界から抹殺するつもりだったが、そのことを知った春峯堂は永井と結託して川北を殺害。その後、古畑に追い詰められた永井が弱気になり、自首を切り出すと、春峯堂は咄嗟に本物と贋作の「慶弔の壺」のうち、あろうことか本物の方で永井を殴って殺害し、壺も壊してしまう。 春峯堂のアリバイの穴を突き、永井殺害と川北殺害への関与まで自白に追い込んだ古畑。しかし、彼にとって最後まで謎だったのが、なぜ贋作でなく真作で永井を殴ったのか、という疑問。古畑は春峯堂が誤って真作で殴ったと推理し、「あなたの目利きは最悪です!」とこき下ろすが、春峯堂は「あなた、1つ間違いを犯してますよ」とこれをあっさり否定する。彼はどちらが真作なのか分かっていた、というのだ。 「要は何が大事で何が大事でないかということです。なるほど、慶長の壷には確かに歴史があります。しかし裏を返せばただの古い壷です。それにひきかえていま1つは現代最高の陶芸家が焼いた壺です。私1人を陥れるために、私1人のために、川北百漢はあの壺を焼いたんです。それを考えれば、どちらを犠牲にするかは…物の価値というのはそういうものなんですよ」。古美術商ではなく、一陶芸ファンとしての狂気に近接する思いに、少しゾワッとする。 古畑に一本取られた、という表情をさせて、殺人を自供したのにまるで勝ち誇ったかのように優雅なたたずまいで連行されていく春風堂。春峯堂=澤村は、本作が現代劇初出演で、その後もほとんど出演していないが、記憶に残る犯人役だった。