「最後の野生ウマ」ってホント？ 謎多きプシバルスキーウマ（モウコノウマ）とは
生息地と食性
プシバルスキーウマはかつてユーラシアの草原を歩き回っていたが、農業が盛んになり、東へと追いやられた。最後に生息が確認されたのはモンゴルのゴビ砂漠だ。この乾燥地帯には、プシバルスキーウマが食べていたと思われる草や低木が密生している。野生のプシバルスキーウマが最後に目撃されたのは1960年代だ。 現在、プシバルスキーウマは主に草葉を食べているが、絶滅前の食性はもっと幅広かった。絶滅前は季節ごとに食性を変え、夏は草をはみ、冬には樹木をかじっていた。再導入されたプシバルスキーウマの食性は異なる。絶滅前は冬に狩猟されていたため、木陰に避難していたが、再導入後はその必要がなくなったためかもしれない。
保護活動
現存するプシバルスキーウマはすべて、1960年代に捕獲された十数頭の子孫だ。野生で絶滅する前から、世界中の動物園で繁殖計画が進められていた。これらの個体は狩猟や在来種との交配など、野生のプシバルスキーウマが直面する多くの脅威から守られていた。 1990年代初頭、プシバルスキーウマをモンゴル、中国、ロシアの生息地に戻すプロジェクトが始まった。21世紀に入るころ、チェルノブイリの立ち入り禁止区域にも30頭以上が放たれた。この群れは10年足らずでほぼ倍増した。 それでも、わずか十数頭の血を引く個体しか現存しないため、遺伝的多様性の欠如は深刻な脅威だ。近年、科学者たちはこの問題をクローン技術によって解決しようとしている。1980年に冷凍保存されたオスの細胞を用い、2020年と2023年にそれぞれ子ウマ1頭のクローンの作成に成功した。クローンの元となったオスのDNAは既存のプシバルスキーウマには残されていないため、2頭の若いクローンウマを既存のメスと交配すれば、遺伝子プールを拡大できる。この遺伝的多様性は、プシバルスキーウマが野生で絶滅したときに失われたものを取り戻すための一歩であり、最終的には、プシバルスキーウマの繁栄につながるはずだ。
ナショナル ジオグラフィック 日本版編集部
