『数分間のエールを』など制作 100studio代表・堀口広太郎に聞く、日本のCGアニメの進化
アニメスタジオに潜入し、スタッフへのインタビューを通してそのスタジオが持つ“独自性”に迫る連載「アニメスタジオのここが知りたい!」。第5回となる今回は、スタジオ代表である堀口広太郎の目線から「100studio」の魅力を掘り下げていく。(編集部) 【写真】『数分間のエールを』制作風景 2024年夏に劇場公開され、新鮮なビジュアルで話題となった『数分間のエールを』。映像製作チームHurray!と共に本作を制作したのは、新興のデジタルアニメーションスタジオ「100studio(ワンダブルオースタジオ)」だ。設立から3年で100名近くの人員を抱える規模となり、今年はテレビアニメ『この世界は不完全すぎる』の元請けも担当(studioぱれっとと共同制作)し、このほど2025年放送予定のテレビアニメ『中禅寺先生物怪講義録 先生が謎を解いてしまうから。』のアニメーション制作を担当することも発表された。台北に支部を持ち、10月にはソウルにもスタジオを設立するなど、国際展開にも積極的だ。 どのようなビジョンでスタジオの運営をしているのか、同スタジオ代表の堀口広太郎氏に話を聞いた。(杉本穂高) ●制作と製作が一体となった100studio ――100studioは2021年設立の比較的若いスタジオですね。設立経緯はどういったものなんでしょうか? 堀口広太郎(以下、堀口):100stuidioを運営する株式会社HIKEの前身はCRESTという会社で、私がそこに加わったのが2020年の11月でした。CRESTはいわゆるプロデュース会社で、当時、私は製作委員会の幹事プロデューサーとしてTVアニメ『セブンナイツレボリューション』をやっていました。しかし、どう事業をスケールしていこうかと考えた時、今後はプロデュースだけでは難しい、やはりこれからは現場が大事になってくるので、実制作できるスタジオも必要だろうとなったんです。ちょうど、MAPPAさんが『チェンソーマン』を単独出資する少し前くらいの時で、いわゆる衣つきの「製作」と「制作」が一緒にやれた方がいいねという問題意識が、業界に出てきた頃でした。メーカーはもっと現場に寄り添わないといけないし、制作スタジオもビジネスを理解しないといけない、その2つを同じ会社で内包できれば、可能性があるんじゃないかと考え、100studioを立ち上げたんです。 ――設立当初は2名でスタートして、3年で100名規模にと、人員が急速に増えていますね。 堀口:結果的に100名ぐらいの規模になっていったという感じです。2024年1月にHIKEが「株式会社しいたけデジタル」を子会社化して、そこにも30名の人員がいますから、アニメーション事業に携わる人員は合わせて130名くらいですね。当初から、200名くらいの規模にまでできるだけ早い段階でいきたいと考えていました。これまで、受託制作でプロデュース協力や一部の映像制作協力などが多かったですが、2024年になってテレビアニメ『この世界は不完全すぎる』と、劇場アニメ『数分間のエールを』、それから映画『刀剣乱舞 廻 -々伝 近し侍らうものら-』の制作協力と大きな企画を3つ出すことができました。元請けで手掛けた、テレビアニメ『この世界は不完全すぎる』と『数分間のエールを』はスタジオ設立当初から動かしてきた企画です。今後も元請け作品の企画が控えている状態で、2025年放送の作品を現在も制作中です。 ●『数分間のエールを』にみる日本のCGアニメの進化 ――スタジオ設立時点で、テレビと劇場の元請けの企画があったのですね。 堀口:そうですね。それがスタジオ設立の後押しにもなっていたと思います。『この世界は不完全すぎる』は、バンダイナムコフィルムワークスさんからの依頼でした。スタジオ設立をリリース前に各社に挨拶する中でお声がけいただきました。デバッガーが主人公のアニメを、ゲームのデバッグの仕事もしているポール・トゥ・ウィンのグループ会社でやるのは面白いんじゃないかと。それと並行して、僕からHurray!さんに連絡を取って何か一緒に作ろうと話して、今夏に公開したのが『数分間のエールを』です。せっかく新しいスタジオを作ったし、クリエイターを軸にした企画をやりたいと考えた時に、「Hurray!さんいいよね」とHIKE(※当時CREST)代表の三上とも話していたんです。自分がグラフィニカ時代に幸洋子さんという個人作家とショートアニメを作っていたこともあって、個性的な作家さんと商業アニメを結び付けたいという思いもありました。そこで、最初は短編企画でオファーしたんですけど、バンダイナムコフィルムワークスさんと検討する中で映画にすることになりました。 ――『数分間のエールを』は新鮮なルックでしたが、あれはHurray!の3人を中心に開発したものですか? 堀口:Hurray!さんはぽぷりか監督を中心に『モナーク/Monark』のオープニング映像や『八月のシンデレラナイン』のMVなど、常に新しい映像表現チャレンジをされていました。今回はまごつきさんのコンセプトアートのイメージをベースにBlenderを活用した2Dと3DCGの手法を取り入れています。 ――堀口さんは、グラフィニカ時代から日本のCGアニメの制作に関わってこられたと思いますが、このところ多彩なビジュアルを追求する動きが活発になってきています。その現状について、どうお考えですか? 堀口:ツール側も進化していて、今は本当に開発スピードも速くなっているんですよね。Blenderはオープンソースですし、テクノロジーの進化で表現できる幅が増えています。開発のコストも以前と比べてかからなくなってきているので、新しい表現に挑みやすくなっているんだと思います。 ――なるほど。 堀口:それにデジタル技術は蓄積されていきます。Hurray!の皆さんも自分たちでやってきたことの積み重ねで今回のスタイルに至っていますから、その意味ではそれぞれのスタジオで自分たちに合った個性を生み出しやすくなってきていると思います。同時に、そういうことを求められるようになってきてもいるという実感があります。『ガールズバンドクライ』もスタイルが象徴的な作品ですね。