103万円の壁が178万円になるのに抵抗する人、期待する人、便乗する人
2024年10月27日に投開票が実施された衆議院議員総選挙で、4倍増に議席を伸ばした国民民主党の、103万円の壁を178万円に引き上げする案が注目を集めています。 サラリーマンのスキルが活かせる「オンライン講師の副業」時給3000円~ 与党と国民民主党の幹事長が2024年12月11日に会談した時に、178万円を目指して2025年から段階的に引き上げすることに合意したので、かなり実現に近づきました。 実現すると給与の手取りが増える可能性があるため、期待する人は多いと思いますが、次のように抵抗する人や便乗する人もいるのです。 給与に課税される所得税を計算する手順 収入が一定額以上ある会社員の給与からは、国税である所得税や地方税である住民税(市町村民税、道府県民税)などが控除されています。 前者の所得税は勤務先の企業などが、次のような手順で計算する場合が多いのです。 (A)1~12月の給与(通勤手当のうち非課税になる部分などは除く)の合計額-給与所得控除=給与所得 (B)給与所得-所得控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除など)の合計額=課税所得 (C)課税所得×5~45%の税率-税額控除(住宅ローン控除など)の合計額=所得税 例えば個人事業主の場合は(A)の給与所得が「事業所得」になり、年金受給者の場合は「公的年金等に係る雑所得」になります。 しかし(B)~(C)の計算には大きな違いがないため、個人事業主や年金受給者でも(B)の所得控除の合計額が多くなるほど、所得税の負担が軽くなるのです。 103万円が年収の壁として意識されている理由 (A)の給与所得控除は会社員にとっての概算の必要経費になるため、収入が多いほど金額は大きくなりますが、最低額は55万円になります。 また(B)の基礎控除は一部の高所得者を除いて、誰もが受けられる所得控除であり、その金額は48万円という場合が多いのです。 両者を合計すると103万円(55万円+48万円)になるため、1~12月の給与の合計額を、この金額の範囲内に抑えると(B)の課税所得はゼロになります。 これにより所得税が課税されないだけでなく、妻が年収を103万円以内に抑えると、夫の所得税を計算する際に、38万円の配偶者控除を受けられる場合が多いのです。 また16歳以上の子が年収を103万円以内に抑えると、親の所得税を計算する際に、38万円(子が19歳以上23歳未満だと63万円)の扶養控除を受けられる場合が多いのです。 103万円が年収の壁として意識されているのは、このように働いている当人だけでなく、夫や親などにもメリットがあるからです。 国民民主党の案は(A)の給与所得控除や(B)の基礎控除を引き上げして、年収の壁を103万円から178万円に引き上げますが、両者の具体的な金額は今後の議論次第だと思います。 年収の壁が178万円になるのに抵抗する人 勤務先の企業などは原則的に年1回のペースで、住民税の計算に必要な各従業員の年収や所得などのデータを、その従業員が住んでいる市区町村に送付します。 また所得税の確定申告書に記載された年収や所得などのデータは、税務署から市区町村に送られます。 このようなデータを元にして市区町村は、住民税の課税対象になるのかを判定し、課税になる場合には月給などから控除する住民税を計算します。 所得税の税率は課税所得に応じて5~45%の7段階になりますが、住民税(所得割)の税率は課税所得にかかわらず10%です。 その他の計算方法には大きな違いがないため、(A)の給与所得控除や(B)の基礎控除の金額が多くなれば住民税も安くなり、各従業員の給与の手取りが増えるのです。 一方で都道府県や市区町村は税収が少なくなるため、103万円の壁が178万円になるのに抵抗するような意見を、複数の都道府県知事や市区町村長が述べています。 これを受けて所得税を計算する時には、給与所得控除や基礎控除の金額を現在より引き上げしても、住民税を計算する時には引き上げしないという分離案が出ています。 年収の壁が178万円になるのに期待する人 健康保険に加入する方の親族のうち、年収130万円未満などの要件を満たして被扶養者になった方は、保険料を納付しなくても2~3割の自己負担で診療を受けられます。 また厚生年金保険に加入する方の配偶者(20歳以上60歳未満)は、年収130万円未満などの要件を満たすと、届出によって国民年金の第3号被保険者になります。 第3号被保険者であった期間は、2024年度額で月1万6,980円の国民年金の保険料を納付しなくても、納付したという取り扱いになるのです。 このような複数のメリットがあるため、130万円は103万円と同じくらいに、年収の壁として意識している方が多いと思います。 国民民主党の支持母体である連合、日本商工会議所、経済同友会などの複数の団体が2024年10月から12月にかけて、第3号被保険者の廃止を政府に提言しました。 例えば連合は年収要件の引き下げなどで段階的に、第3号被保険者を自分で国民年金の保険料を納付する第1号被保険者に移行し、約10年で廃止する計画のようです。 国民民主党の案が実現して130万円の壁を超える方が増えると、第1号被保険者への移行が進むため、連合の関係者は実現するのを期待していると推測します。 なお国民民主党と同じように連合を支持母体とする立憲民主党は、130万円の壁を超えた時は200万円に達するまで、「就労促進支援給付」を支給する案を出しています。 年収の壁が178万円になるのに便乗する人 2024年10月からは次のような5つの要件をすべて満たすと、社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入します。 (1)賃金月額が8万8,000円以上である (2)週の所定労働時間(契約上の労働時間)が20時間以上である (3) 2か月を超えて雇用される見込みがある (4)学生ではない (5)従業員数が51人以上の企業などに勤務している この中の(1)に記載した賃金月額の8万8,000円は、年収に換算すると約106万円になるため、20時間の壁というよりも106万円の壁として意識されています。 厚生労働省は以前から(5)の企業規模要件を廃止する案を出していましたが、国民民主党の案が話題になった後は、(1) の賃金要件を2026年10月に撤廃する案も出してきました。 これを便乗だと主張する識者の方もいますが、個人的には厚生労働省の方が先を行っていたと思うのです。 厚生労働省は2024年7月に発表した年金財政検証の中で、上記のような社会保険に加入する要件を引き下げ、または廃止(撤廃)した場合の影響を試算しています。 その中では(5)の企業規模要件を廃止した場合や、(1) の賃金要件を撤廃した場合の影響を試算しています。 これらに加えて(2)の所定労働時間を、20時間以上から10時間以上に引き下げ、学生も社会保険の対象に含めた場合の影響も試算しています。 厚生労働省がこのような試算を実施したのは、将来に改正を実施するための下準備でもあるため、厚生労働省の方が先を行っていたと思うのです。 また雇用保険の加入要件は2028年10月に、週の所定労働時間が20時間以上から10時間以上に引き下げられるので、社会保険も10時間以上になる可能性は十分にあるのです。
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