なぜ自衛隊でハラスメント続く? 現役幹部自衛官の考察…解決のカギは「指揮」と「統御」のバランス?
自衛隊が向きあう課題のひとつがハラスメント問題だ。元陸上自衛官、五ノ井里奈さんの被害告発を受けて、防衛省は全隊員を対象にハラスメントを調査する特別防衛監察を実施したが、その後も被害は相次いでいる。なぜ自衛隊でハラスメントがなくならないのか。 【画像】五ノ井さんへの強制わいせつで元自衛官3人に有罪判決 陸自トップがコメント
■五ノ井さんの告発以降も続くハラスメント被害
「二度とハラスメントがないようにしてほしい」 そう訴え、2022年に自らが受けた陸上自衛隊でのセクハラ被害を実名で告発した五ノ井里奈さん。当時の浜田防衛大臣は「対策になお一層しっかり取り組む」として、ハラスメントの根絶に向けた措置に関する大臣指示を出し、対策のための有識者会議を設置したほか、防衛省・自衛隊のすべての隊員を対象に実態調査のため特別防衛監察を2022年9月から実施した。 ところが、監察開始後の22年11月には、護衛艦いなづま内で、先輩隊員が後輩隊員の脛(すね)を蹴るなどの暴行を伴う指導を行ったり、海上自衛隊の呉地区の部隊では防衛監察開始前から継続して男性隊員が同僚の女性に抱きつくなどのセクハラ行為を行い、さらに女性が拒否しているにもかかわらず幹部が女性を加害隊員に面会させるという事案が起きた。海上自衛隊だけでも監察開始後に発生、または継続したハラスメント行為で、すでに17人が懲戒処分を受けている(23年12月22日現在)。 「防衛力の中核は隊員」と位置づける自衛隊。ハラスメント問題は、国防力の脆弱性(ぜいじゃくせい)を招きかねず、2023年度の防衛白書は、ハラスメントの章を新設して「自衛隊員相互の信頼関係を失墜させ、組織の根幹を揺るがす、決してあってはならないもの」と書き込んでいる。 自衛隊でハラスメントが続くのはなぜなのか。
■有識者会議の提言では…
2023年8月に提出された有識者会議の提言では、組織の特性として「厳しい教育訓練や、長期的な集団生活」に置かれるため、職務の適正な指導とパワハラの区別にズレが生じる場面が起こり得ると指摘された。 また、部隊における隊員の一体的な関係はよく「家族」に例えられると説明され、「家族だから許される」という認識を生じさせかねないとも指摘された。さらに、指揮官らの自覚が不足していて、起きたハラスメントへの責任を明確化してこなかったことや、対策について外部から評価や助言を求めてこなかったことなども挙げられた。 その上で、各機関のトップが定期的にメッセージを出すことや指揮官にはハラスメントに関する職責について具体的・実戦的な教育がなされるべきなどとされた。