『虎に翼』桂場は“穂高イズム”を失ったのか? 土居志央梨の“切実な表情”の説得力も
よね(土居志央梨)が航一(岡田将生)に告げた“切実な思い”
一方で月に一度の法制審議会少年法部会には弁護士になった汐見圭(平埜生成)も参加していた。法改正ありきで議論を進めようとする豊谷(中山祐一朗)との議論は平行線で、一向に解決のきざしが見えない。「少年法改正を急ぐ必要性がわからない」と語る頼安(沢村一樹)に、豊谷は「まず法が変わり、現場がそこに合わせて形にしていく強引さが、時に社会構造をつくり上げていく」と自身の立場を崩さない。 1971年(昭和46年)春、朋一は寅子のいる東京家裁少年部に判事として着任する一方で、気になるのは美位子(石橋菜津美)の事件についてだ。上告から1年が経っているが、最高裁が受理するかは決まっていない。よね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)のもとを訪れた最高裁調査官の航一(岡田将生)は、よねから事件の詳細について改めて思いを聞いた。「暴力は、思考を停止させる。抵抗する気力を奪い、死なないため、すべてを受け入れて耐えるようになる」「私は、救いようがない世の中を、少しだけでもマシにしたい。だから心を痛める暇はない」というよねの思いに、航一はじっくりと耳を傾けていた。かつてマスターに助けられた過去があるからこそ、よねは誰よりも美位子を助けたいと願っている。土居志央梨の切実な表情は何よりも説得力があった。 誰もが目を背けたくなるような美位子の過去だが、よねも語るようにこれはありふれた悲劇にすぎない。これは美位子に限らず、辛い過去を抱えている者たちの希望の裁判なのだ。
川崎龍也