中国当局が政治的作品で知られるアーティストを逮捕。容疑は「英雄烈士」への侮辱
9月2日にニューヨーク・タイムズ紙は、中国出身のアーティストデュオ、ガオ兄弟のガオ・チアンがメールで取材に応じた内容を報道。それによると、2022年からアメリカに在住しているガオ・ジェンが最近家族を訪ねるため中国に滞在していたところ、北京の近郊にある河北省三河市の警察に逮捕された。容疑は「中国の英雄と殉難者への侮辱」だという。 中国では2018年に英雄烈士保護法(建国の礎となった英雄や公共のために犠牲になった殉難者を重視する方針に基づく法律。烈士は殉難者を意味する)が制定された。また、習近平国家主席への批判を抑える世論対策の一環として2021年3月から施行された改正法では、英雄烈士への侮辱は最長で禁固3年の刑が科せられることになった。2021年の共産党大会で習主席は、「我われは赤い伝統を力強く継承するため、党全体を教育し、指導する必要がある」と述べている。 ガオ兄弟は1990年代から共産主義の正統性に疑義を呈する彫刻、絵画、パフォーマンス作品を制作してきた。その題材となったのは、中国共産党を創立した毛沢東や1960年代後半から70年代まで続いた文化大革命、民主化運動の武力鎮圧で多数の死傷者が出た1989年の天安門事件などだ。 チアンによると、警察当局は8月下旬にジェンのスタジオを強制捜査し、複数の作品を押収した。いずれも文化大革命をテーマとしたものだが、制作されたのは10年以上前だという。英ガーディアン紙のインタビューでチアンは、押収されたものは2021年の改正法施行のはるか前に作られたものだとしてこう主張した。 「私は、新しい法律が施行される前に行われた行為に対して遡及的に処罰を適用することは、『不遡及の原則』に反すると考えていますし、この原則は現代の法治国家において広く受け入れられています。芸術的創作と犯罪行為の間には明確な境界線があるのです」 チアンはさらに、アートネットニュースに対しこう述べている。 「現在の状況はまさに、これらの作品が批評しようとしたものに他なりません」
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