「スポーツ現場での性犯罪、氷山の一角」 小中高生の相談「体触られた」も
バトントワリングの民間チームで起きた性暴力事件は、コーチが自宅に教え子を誘い出すなどしてわいせつ行為を繰り返していたとされる。スポーツの現場では、過去にも指導者による性犯罪が問題となってきたが、立場の弱い選手との上下関係などから被害の実態は「氷山の一角」との指摘もある。専門家は「性加害の原因を指導者個人の特性によるものとするのではなく、ハラスメントが起こりやすいスポーツ現場の環境を改善していく必要がある」と訴える。 【写真】10代男子選手への強制わいせつ罪 バトン元コーチ起訴
「徐々に表面化」見方も
日本スポーツ協会によると、協会が設置するハラスメント窓口に全国から寄せられる相談件数は昨年度が485件で、統計を取り始めた2014年度以降で最多となった。約7割が小中高生の被害相談で、「指導者に体を触られた」といった内容もあるという。担当者は「ハラスメント防止活動が周知され、相談が増えている」と説明。裏を返せばこれまで水面下に埋もれていた被害が、徐々に表面化しているとの見方もできる。
同協会が19年に全国のスポーツ指導者を対象に行ったハラスメント調査で、回答を寄せた約2500人のうち「過去5年でセクシュアルハラスメントを見聞きした」と答えたのは、全体の約3割の約730人だった。背景として「指導者の人間性や人格」を指摘する声が最も多かったが、次いで挙がったのがスポーツ現場での「被害を訴えにくい関係や環境」だった。
「選手支配の現場では性加害が起こりやすい」
スポーツの現場が抱えるハラスメントの問題について、スポーツとジェンダーに詳しい城西大の山口理恵子教授は「練習や合宿といった閉鎖的な空間で、指導者が選手を支配しているような現場では、性加害が起こりやすい」と指摘する。バトントワリングのコーチによる今回の性暴力事件では、逮捕されたコーチの加害行為に対して被害者の教え子は「怖くて断れなかった」と打ち明けており、厳然とした力関係が垣間見える。
事件を巡っては、日本バトン協会の理事長(当時)らが被害者側に口止めを求めるなど、本来なら真相解明や被害者の保護に率先して当たらなければならない競技団体側の不手際が問題となった。山口教授は「競技団体は得てして、各スポーツの元選手ばかりで構成された同質集団になってしまい、旧来の体質に問題意識を持ちづらくなっている現状がある。組織の中に外部理事を積極的に任用することで新しい意見を取り入れ、被害者の訴えをきちんと受け止められるような組織に変革していく必要がある」と提起する。