V16でリオ五輪内定の吉田沙保里が流した涙の理由とは?
そして、今回、マットソンが示した最新の攻略法は、落ちたスピードによって露呈した吉田の未熟な部分を突くことだ。かつて、米国コーチとして吉田の攻略法を編み出した八田忠朗氏は、こう語る。 「今回の苦戦は『がぶり』がきちんとできていないからです。研究がすすんでおらず、もっとスピードがあった若いときなら問題がなかったので、今のがぶりでもよかったのでしょうが、決勝戦で、みせたようながぶりでは得点につながりません」 レスリングの場合のがぶりとは、うつぶせの相手に覆いかぶさる姿勢で肩口に両腕を入れプレッシャーをかける姿勢のこと。相手が攻撃してきたときの防御法としても機能するが、多くはそこから得点するために後ろへ回る。がぶりの技術が不完全なため、吉田はタックルに入るタイミングを作れなくなっていたというのだ。 日本のコーチ陣からは異なる意見が出てくるかもしれない。しかし、常に研究する側だった指導者からは、今の吉田沙保里をめぐる環境が過去3回の五輪を目指した頃とは違って見えている。加齢によるスピード低下で見えてきた特徴を新たな研究対象としつつあるのだ。その変化を最も感じているのは、実際に試合をした吉田自身だろう。だからこそ、世界16連覇しても試合中に感じた恐さを隠せなかった。 かつてタックル返しには、タックルの精度を上げることと自らの肉体を強くすることで対応した。密着する相手に対しては、いなしなどでタックルしやすい相手のくずし方の種類を増やすことで乗り越えた。しかし今回、マットソンが吉田にまともなタックルをさせなかったのは、くずし方のパターン分析が進んでいることを示している。 リオ五輪へ向けて、吉田沙保里がどんなレスリングをするのか、各国の研究はさらにすすむだろう。誰も届いたことがない五輪4連覇へ向けて、研究されてもなお乗り越えていく姿を期待したい。 (文責・横森綾/フリーライター)