V16でリオ五輪内定の吉田沙保里が流した涙の理由とは?
なぜ必殺技ともいえるタックルが大きな得点源にならなかったのか。 「タックルを入らせない、または入った後のカウンターで攻めようなど、私のレスリングについて本当にいろんなことが研究されているなと思います」 この何年か、ベテラン選手となって以来よく口にする「研究されている」という言葉が、今回も繰り返し出た。いったい、彼女の何が研究されているのか。 研究対象となっているのは、当然、吉田のタックルだ。もともと、相手と少し距離をとった間合いから並外れた俊敏性を生かして入るのが彼女のタックルの特徴だった。対吉田研究の第一段階としては、まず吉田が得意なタックルをいかに「返すか」に関心が集まった。勢いよく入ってきたところを逆に投げ、大きな得点を我がものにしようという考え方だ。 かつて吉田のタックルは、相手に対して頭の位置が不安定な状態で懐に入ることがままあった。相手の重心の自由を奪う位置へ正確に頭と肩を入れないと、本来ならタックルは得点につながらない。その点がおそろかだったにも関わらず、相手が対応できない速さで強引に得点していた。しかしこの不安定さに目をつけられ、投げ技が得意な欧州の選手にたびたび投げられ失点していた。 マットソンの一世代前のスウェーデン代表からもタックル返しで投げられたことがあるし、前出のようにアテネ五輪でも自分が入ったタックルをきっかけに投げられている。それでも連勝していたが、この弱点は2008年の国別対抗団体戦でアメリカ選手に敗れる原因となった。 次に吉田対策として浮上したのは、好きな「間合い」を詰めることだ。常に吉田に密着することで、タックルに入れる間合いを作らせない。これは、もつれた状態からの展開が得意な選手がよく実践した。2012年に、やはり国別対抗団体戦でロシア選手に敗れたときは、密着した状態を常にキープされたのが敗因のひとつといえる。