【訂正】Mrs. GREEN APPLE 大森元貴を支える若井滉斗&藤澤涼架 確かな技術を持つアーティストとしての魅力とは
音楽学科由来の超絶テクニックを持つキーボード 藤澤涼架
「ケセラセラ」のMVでの演奏シーンで、フルートを演奏しているのがキーボードの藤澤だ(ライブでも時折披露している)。学生時代に音楽科に籍を置き、クラシックなどの音楽的知識をベースにアレンジ面で引き出しの多さを発揮するキーボード 藤澤のサウンドアプローチにおいてまず取り上げたいのは、「ナハトムジーク」(2024年)だ。映画『サイレントラブ』(2024年)の主題歌として書き下ろされたバラード曲である。Mrs. GREEN APPLEの公式YouTubeでは、同楽曲のレコーディング動画が公開されている(※1)。大森は、珍しく時間経過のない世界観で、ストーリー性をもって何かが変わっていくのではなく、短いところを広げて同曲の歌詞を書いたと説明した後、「実際に映画館で聴いた時に『このサウンドすごく美しいな』とか、いろんな部分でハッとしてもらえるポイントがあるといいなと思う」と、若井と藤澤に表現したいイメージをリクエスト。この言葉に対し、藤澤は「熱量感をどこまで楽器で表現するのか、歌に委ねるのか」と、若井も後半のスケール感について「どこまで行き切っていいのか、行き切らない美しさもあるから」と、両者ともにビジョンを共有するための質問を返している。大森のイメージに対して、2人は具体的に質問し、チューニングを繰り返すのだ。 そうして作り上げていった「ナハトムジーク」での藤澤の鍵盤でのアプローチは、最初のAメロではアンビエントにも通ずるような空間の響きを大切にしている。鍵盤を弾いているというよりは、鍵盤の一音を置いて余韻を漂わせるような浮遊感。この曲のハイライトは、それまで淡々としていた楽曲のストーリーを2番のサビ前で一気に展開させる藤澤の鍵盤のアプローチだろう。クラシック然とした和音の連打のなかで、短く転調を繰り返し、最後には少しだけ流麗なメロディを聴かせ、大森のサビへと繋いでいる。和音の連打も歌とメロディを活かし、しなやかに優雅な音色で聴かせている。 アップチューンの「アウフヘーベン」(2018年)では、イントロから楽曲が終わるまで、インプロビゼーション(即興演奏)のように奔放で、スキルフルなピアノプレイを披露している。音と音の合間を縫うというよりも、バンドアンサンブルそのものをリードし、大森の歌と重なる際にはコーラスを添えるかのような表情を見せる。注目したいのは、どれだけ転調してもどれだけトリッキーなフレーズを弾いても、優雅さと品があることだ。この品のある音色は「ナハトムジーク」にも通ずる。 若井、藤澤と変わらずスキルフルなのは、ボーカルの大森も同様。自身の飽き性が「結果的に自分を苦しめていることにもなっている」と笑っていたが、その“苦しみ”の必要性を的確に分析している。「経験値を得る時って、楽しかったことだけじゃなくて、自分のなかでの成功体験というか、何か乗り越えられたっていう自覚と自任がとても大切だと思っていて。だから、そこのハードルはなるべく下げないようにしたいな、と。それが、結果的に全員が苦しむっていう形に(笑)」――。「苦しむ」と言いながら笑う大森。その言葉に笑顔で頷く若井と藤澤。自分たちが成長するために、新しいことに絶えず挑戦し、ハードルを上げていく。喜びのための苦しみだから乗り越えられる――それを3人が自ら身をもって経験し、体現している。だからこそ、Mrs. GREEN APPLEが歌う“希望”や“憧憬”は聴く人を鼓舞するのだ。 Mrs. GREEN APPLEの新たなハードルは、私たちの想像をいつも軽く超えてくる。だからMrs. GREEN APPLEというエンターテインメントは観ていて飽きないし、いつも楽しいのだ。 ※1:https://www.youtube.com/watch?v=68osodYoU44 ※記事初出時、以下表記に誤りがございました。以下訂正の上、お詫び申し上げます。(2024年9月24日07:52、リアルサウンド編集部) 誤:岩井 正:若井
伊藤亜希