芥川賞・インド在住の石井氏、受賞の瞬間ピースして夫と踊った
第158回芥川賞・直木賞が16日夜、発表され、芥川賞は、石井遊佳(ゆうか)氏(54)の「百年泥(ひゃくねんどろ)」と、若竹千佐子氏(63)の「おらおらでひとりいぐも」の2作が、ともに初のノミネートで受賞した。インド在住の石井氏は、電話でのインタビューで「さんざん迷惑をかけた両親にありがとう、と心から申し上げたい」と喜びの声をあげた。
石井氏は、大阪府枚方市生まれ。今は、インドのチェンナイ市で夫とともに日本語教師をしている。この日は、オフィスで本を読みながら連絡を待っていたところ、現地時間の午後3時15分ごろに携帯電話で受賞の知らせを受けた。「振り向いて(後ろにいた)夫にピースサインをしてから、夫と2人で踊りました」。大阪出身らしく、「(小説は)笑いを取るのが目的ではないが、常に笑わしてやろうという意識はある」と明かす。 昨年刊行した受賞作は、第49回新潮新人賞も受賞した。「昨年の後半から状況が激変して驚いている」と語る一方、インドにいるため日本でどのように話題になっているのかは知人からの伝聞でしか知ることができず、「自分のことなのに前世の自分の話を聞くような不思議な感じ」と話す。明後日には帰国し、芥川賞の授賞式には出席するという。 選考委員からは、言葉に活気があったとの評価を受けた。「読み返すとずいぶんテンポの激しい小説だなと思うが、エピソードがエピソードを生みながら転がっていく話が好きなので」と自身の作風を解説した。 10代のころから日記という形で身の回りのことを書き始め、30代になって本格的に小説の投稿を開始した。これまでに書いた小説は100本以上。受賞まで約20年もの長い年月を要したが、「何回生まれ変わっても作家になろう、という気持ちが強かったので、焦りの気持ちはなかった」ときっぱり。 一つの仕事も長く続けたことはないといい、自らを「あまり物事が続かない人間」と評する石井氏だが、「書くことだけはずっと続けてきた。文字表現を使って世界を表現する、という業を背負って生まれてきたと思っている」。 (取材・文:具志堅浩二)