<PlayHard特別な夏・磐城>/5止 「絶対王者」の高い壁 敗戦の教訓、甲子園で 県代表の自覚芽生え /福島
全国の高校球児が憧れる甲子園のグラウンドに立つからこそ負けられない。中止された夏の選手権福島大会に代わり7月18日に開幕した県独自大会。磐城ナインは優勝を目標に掲げて臨んだ。最大の壁は、準々決勝で対戦した聖光学院。昨年まで13年連続で夏の甲子園に出場している「絶対王者」だ。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 試合は二回、磐城が相手バッテリーのミスで1点を先制したが、聖光学院が逆転。七回に磐城が市毛雄大選手(3年)の適時打で追いつく接戦となった。しかし、その裏、本調子でないながらも力投してきたエースの沖政宗投手(3年)がつかまり、2―4で敗れた。目を真っ赤にして球場を引き揚げたナイン。渡辺純監督は「よく戦ったと思うが、あと一本が出なかった。反省を生かして甲子園ではいい試合をし、勝利を目指したい」と悔しさをかみ締めた。 試合後、沖投手は一人、相手ベンチに向かい、聖光学院の斎藤智也監督に「ありがとうございました」と頭を下げた。沖投手によると、斎藤監督は「よく頑張って投げたな」とねぎらいながらも、「甲子園は厳しいぞ。そう簡単には勝てない」と、あえて厳しい言葉も口にしたという。斎藤監督は報道陣に「甲子園への壮行試合のつもりだった。ここですんなり勝たせてはいけない。野球の厳しさを伝えて甲子園へ送り出したかった」と話した。甲子園を知り尽くしているからこその親心に、沖投手は「応援してくれていると感じた。福島の代表として戦う自覚が芽生えた」と感謝した。 目標としていた優勝はならなかったが、独自大会で磐城が得たものは少なくない。 甲子園交流試合で対戦する国士舘(東京)のエース・中西健登投手(3年)はサイドスローで、聖光学院のエース・舘池亮佑投手(3年)とタイプが似ている。舘池投手と対戦したことで、サイドスローの投手を打つ感覚がつかめた選手も多く、特に市毛選手は舘池投手を5打数3安打と打ち込んだ。「2打席目くらいから当て方が分かった気がした。いい感覚を忘れずに(甲子園での)試合に臨みたい」と手応えを語った。 チーム全体の底上げができたのも収穫だ。昨年の秋の大会は、大黒柱の沖投手が頼りだったが、今大会は成長株の背番号11、佐藤綾哉(りょうや)投手(2年)が奮闘した。4回戦の学法石川戦では、先発した沖投手が七回に2失点し、なおも無死満塁のピンチ。ここでマウンドに上がった佐藤投手は持ち前の強心臓と威力のある直球を武器に後続を断った。仙台育英時代に何度も甲子園を経験している学法石川の佐々木順一朗監督も「追い込まれた場面も笑顔で思い切り戦っていた」と脱帽した好救援だった。 沖投手も「綾哉なら抑えてくれると思っていたが、あの場面でしっかり打ち取れるのはすごい。彼が控えでいてくれるのは心強いし、そのおかげで思い切り投げられる」と頼もしそうだ。初戦の会津連合との試合では、公式戦初先発の国府田将久投手(2年)が5回を被安打1、無失点の好投でアピールした。 打線では、昨年秋の大会では先発したり控えに回ったりしていた竹田洋陸(ひろむ)選手(3年)が1番・右翼に定着。沖投手とは幼なじみで「秋は沖に助けてもらった。夏は自分が打って沖を楽にしてやりたい」と張り切る。右翼の守備位置から大きな声で沖投手を励ますムードメーカーでもある。 荒波を乗り越え、チーム一丸となって強豪に挑む磐城ナイン。一度は諦めた夢の舞台はもうすぐだ。=おわり(この連載は磯貝映奈が担当しました)