【実録 竜戦士たちの10・8】(30)『落合記念館』落成記念パーティーに往復13時間をかけ駆け付けた12球団で唯一の幹部
1993年12月17日。東京・銀座の日本野球機構会議室で開かれたプロ野球実行委員会では、このオフから導入されたFA制、新ドラフト制度の反省点、新たな問題点などが洗い出された。 各球団の代表から出たのは複数年契約の是非について。球団とFA有資格者の交渉手段として、複数年契約が当たり前のように使われている。 これについて吉国一郎コミッショナーは「(複数年契約は)野球協約では認められていない。2、3年先はともかく、来年の契約については1年契約で臨んだらどうか」という考えを示した。巨人が槙原らと交わした「複数年契約」は、あくまで”口約束”で、契約自体は統一契約書にのっとって対応することを求めた。 また、大学と社会人の選手に限って上位2枠まで逆指名を認める新ドラフト制度では、契約金の最高額は1億円となっていたが、「上限」ではなく、あくまで「標準額」という定義。そのため、1億円を大きく上回る条件を提示し、有望選手からの逆指名を取り付けた球団が複数あったことも明らかになった。その額は「1億6000万円」とも言われ、これにはセ・リーグ会長の川島広守も「常軌を逸している。今後に悪影響を及ぼす」と厳しく叱責(しっせき)した。 逆指名制度はその後、名称や方式を変えながら続いたが2006年を最後に廃止された。理由は結局、何年たっても”裏金問題”が解消されることがなかったためだ。 和歌山県太地町ではこの日、5年の歳月と総工費5億円をかけ完成した「落合記念館」の落成記念パーティーが開催された。地元関係者、太地町町長、野球界からは解説者の関根潤三ら350人が出席したが、プロ野球の12球団幹部では巨人のオーナー代行・湯浅武がただ一人出席した。 「代表(保科昭彦)が実行委員会で来られないので、私が来ました。巨人は儀礼に厚いだけですよ。生ぐさい話はありません」と言うが、東京から電車を乗り継ぎ、往復13時間をかけて駆け付けたものだった。 2階建ての館内には社会人の東芝府中時代からの落合の足跡を示す写真やトロフィーなどがびっしりと飾られていた。 「まだ40歳という若輩です。館内にはまだいろいろなものが入るスペースもありますし、来年も頑張ります」とあいさつした落合。晴れ晴れとした表情はすでに新天地での活躍を思い描いているようでもあった。 =敬称略
中日スポーツ