渚は戻って来られるのか? 令和と昭和が舞台の「ふてほど」、実は“平成”の苦労もきちんと描いている
「ゆとりですが」でも描かれたハラスメント疑惑
市郎やサカエのような人は、環境が変わってもすぐに適応して馴染むことができる特別な存在だ。対して、労働環境やハラスメントに異を唱える人や、世間がうるさいからという建前上の理由だけで世間の価値観に合わせることができるテレビ局の上層部も、立場こそ真逆だが令和の価値観を生きているといえるだろう。 渚のような令和の価値観に表面上は合わせて適応しているが、違和感を抱えている。そんな上司と部下の間で板挟みになっている30代の中堅に皺寄せが向かっているというのが「不適切」が描く令和に対する現状認識だ。 渚は34歳で、世代で言うとゆとり世代にあたるのだが、2016年に宮藤は、1989年生まれのゆとり第一世代の3人の男性を主人公にした連続ドラマ「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系、以下「ゆとり」)を手がけている。 「ゆとり」で、主人公の1人であるサラリーマンの坂間正和(岡田将生)が後輩の山岸ひろむ(仲野太賀)に、仕事中の発言を逆恨みされ、ハラスメントで訴えられる場面を、渚がハラスメントで訴えられるシーンを見て思い出した。劇中で「ゆとりモンスター」と呼ばれている山岸は、同じゆとり世代の坂間でも理解不能な得体の知れない怪物として当初は描かれた。 「不適切」の9話では杉山からパワハラで訴えられた渚が、杉山の弁護士と上司から聞き取りを受ける場面があるのだが、「ゆとり」にも坂間が山岸へのハラスメント疑惑について会議室で意見を聞かれるというそっくりな場面がある。 しかし、大きく違うのは「ゆとり」では、聞き取りに山岸も顧問弁護士と労働組合の代表と共に同席し自分の被害を訴えることだ。対して「不適切」では、被害を訴える杉山がその場にいない。 坂間を訴えるという主張は暴論で、上司も坂間の味方をしてその場で山岸を叱責する。その後、山岸は訴えを取り下げ会社に残り、坂間と山岸は対話を繰り返し、少しずつお互いを理解していくというドラマらしい展開になっていくのだが、2016年のドラマでは描くことができたクレーマー化した若手社員との対話が、2024年の「不適切」ではできなくなっていることが、この2作を比較するとよくわかる。