ソニー元CEO・平井一夫「努力は数を打つことじゃない」限られた時間の中でよい結果を出す方法
自分はどこがどれだけわかっていないか?
この「努力の的を絞る」というプロセスは、実は「他力を上手に頼る」ということにもつながっています。「どこがどれくらい苦手なのか」を把握すれば、自分一人でがんばらなくても、その部分に明るい人に助けを求めて物事を進めることができるからです。 自分自身がすべてを把握していない状態でも、「どこがどれくらいわかっていないのか」が自分でわかっていれば、少なくとも、わかっている人に質問できる。すると、質問と応答のやり取りの中で理解を深めることができます。 わからないまま丸投げせずに、質問し、確認しながら重要な判断を下すこともできます。 逆に「何がわからないのかわからない」状態では、誰かに教わろうにも何から手を付けたらいいのかがわからず、教える側を困らせるだけでしょう。「ここはどういうことでしょうか」という質問すらできないため、一向に理解は深まりません。 このように、「自分はどこがどれだけわかっていないのか」を理解した上で人に頼る。これもまた有効な努力のあり方なのです。 あらゆる仕事は人間同士の協働によって成し遂げられるものです。 人にはそれぞれ得意分野と苦手分野がありますから、「自分はどこがどれだけわかっていないのか」を理解していれば、苦手なことに関しては人に任せる(丸投げではなく、そのつど確認しながら任せる)という道を選ぶこともできるでしょう。
「打つべきところ」は人それぞれにある
思い返せば小学生のころ、母に勉強を教わっていたときに「あなたは、わかっていないところがわかっていない」と言われたことがあります。 ショックを受けつつも納得したことを鮮明に覚えているので、ひょっとしたら、ここで述べている私の「努力観」の根っこには、あのときの母の一言があるのかもしれません。 たとえ全体を見渡さなければならないリーダー的立場にあったとしても、自分が携わる事業や会社の隅々まで把握して、すべてを自ら実行できるほどの理解や経験を会得しきるのは難しいものです。時間だってかかります。 努力は大事ですが、やはり無暗に「数を打つ」だけでは、必ずしもいい結果や成長には結びつきません。 ひたすら数を打てばいいわけではなく、人それぞれに「打つべきところ」がある。 そこを見据えて、その時々の状況にとって有効な努力をすること。いきなり千本ノックを始めてしまうより、「今の自分にとって有効な努力とはどういうものか」を考えた上での努力のほうが、はるかに有効だと言えます。
平井 一夫(ソニー 元CEO / 一般社団法人プロジェクト希望 代表理事)