金融市場も“アメリカ・ファースト” これから始まる「トランプ相場」を生き残る投資戦略【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
3.トランプ2.0を生き残る投資戦略
■「強いものではなく、変化に適応したものが生き残る」と言ったのは、英国の地質・生物学者チャールズ・R・ダーウィンですが、今後大きな変化が予想される市場環境で投資家として生き残っていくには、相応の変化が求められるのは当たり前かもしれません。 〈金利上昇を凌ぐ〉 ■トランプ時代に想定される環境変化の一つに挙げられるのが、金利の上昇ではないでしょうか。減税を含む積極財政は景気浮揚と同時に財政悪化を招く可能性が指摘されています。更に、安価な輸入品に関税がかけられることでインフレ圧力も高まる可能性があることから、金利には上昇圧力がかかることとなりそうです。 ■株式市場にとって逆風となりやすい金利上昇ですが、米国の金融機関と異なり投資有価証券全体では大きな含み損を抱えていないとされる日本の金融機関にとっては、株価の追い風となる可能性が高そうです。例えば、銀行は低利の預金と貸出・運用との金利差から得られる収益で決済サービスのコストを賄っていますが、低金利下ではこうしたコストをカバーできないため、どうしても経営は苦しくなります。一方、金利が上昇すると、銀行としての決済サービスがペイするようになり、更に貸出金利と調達金利との差が拡大するため、利ザヤ改善により業績は大きく改善する傾向があります。 ■また、生保も保険契約者と約束した利回りを上回る水準での資産運用を続ける必要があるため、金利上昇は逆ザヤ解消などを通じて経営や株価に大きなプラスとなりそうです。 〈絶望的に明るい軍需産業の近未来〉 ■トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)のような多国間の防衛協定において、同盟国にGDP比で3%の防衛費負担を求めていると報じられています。「天は自ら助くるものを助く」のことわざにある通り、関係国に自助努力を強く求めた格好です。世界で最も厳しい安全保障環境にあるとされる日本でも、国防・宇宙関連ビジネスには強い追い風が吹くこととなりそうです。このため、主要な国防装備品を製造する重電メーカー、ロケット・衛星関連ビジネスを手掛ける電機大手、精密機器メーカーなどは、関連銘柄として注目を集めることとなりそうです。 〈クリーンエネルギー「原発」の再評価〉 ■気候変動問題への関心が低く、パリ協定からの離脱がささやかれるトランプ新政権は、新たなクリーンエネルギーとしての原子力発電に注目しています。トランプ氏は選挙公約で既存の原発利用拡大、先進原子炉開発、そして、関連する規制緩和を打ち出していますが、中でもSMRと呼ばれる最新鋭の小型モジュール炉への市場の関心が高まっています。 ■既に、グーグル、アマゾン、オラクルなどがAI開発で利用する大規模データセンターに、SMRを併設する計画を表明しています。こうした動きもあって、原発関連銘柄はAIの成長ストーリーに原発のイノベーション期待が加わることで、投資テーマとして注目を集めることとなりそうです。 〈論功行賞から始まる投資テーマ〉 ■選挙にまつわる露骨な論功行賞は、洋の東西を問わず世の常と言えそうです。今回の米大統領選挙で言えば、テスラ社のイーロン・マスクCEOがその筆頭格と言えそうです。 ■テスラの株価はトランプ氏の当選判明から既に約3割も上昇していますが、マスク氏は新たに新設される政府の機関である「政府効率化省(Department of Government Efficiency)」の初代トップへの就任が伝えられています。そんな、マスク氏のビジネス、中でも、自動車の自動運転、自動車の統合ソフトウェア開発、ロケット・宇宙関連ビジネスなどについては、規制緩和や補助金の交付など様々な政治的サポートがなされる可能性があり、関連業種・銘柄には、こうしたニュースフローを材料に市場での物色が強まる展開も期待できそうです。 〈まとめに〉 ジャイアンの得意料理「ジャイアンシチュー」は、挽肉、たくあん、塩辛、ジャム、大福などをまとめて煮込んだ、悪臭を放つ個性的な料理です。周囲はジャイアンシチューを食べなければならないことに戦慄しますが、トランプ氏の要求を無理やり飲まされる周辺国の今の姿と重なります。財政拡張や高関税と同時にインフレ抑制を目指したり、強い米国を志向しつつ国際協調や同盟関係に逆行しかねない要求を振りかざすなど、その政策には「アンバランスで危険な匂い」が漂います。 ジャイアンは主催するディナーショーのために調理した「ジャイアンシチュー」を自ら試食して気絶してしまいますが、そうしたドタバタは漫画の世界だけにしていただきたいものです。 ※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。 ※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『金融市場も“アメリカ・ファースト” これから始まる「トランプ相場」を生き残る投資戦略【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。 白木 久史 三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフグローバルストラテジスト
白木 久史,三井住友DSアセットマネジメント株式会社
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