コロナワクチンは結局効果があったのか、なかったのか。ネットに膨大に流れる情報や意見を自分なりに理解するために必要な最低限の知識
効果を知るには「比較すること」が必要
さて、ここまでお読みになった鋭い読者の皆さんはお気づきになったかもしれません。ワクチンの効果を吟味する場合は「比較」が必要なのです。 ワクチンを打った群と打たなかった群を比べて、どちらが×××だったか。その×××が感染でも、発症でも、重症化でも、死亡でも、他人への感染でも構いません。とにかく効果を調べるには「比較」が必須なのです。 よく「ワクチンを打ったのにコロナになった」あるいは「ワクチンを打っていないのにコロナになってない」といった個人的なエピソードを根拠に、コロナのワクチンは意味がない、と主張する人がいますが、これは根拠の立て方が間違っています。なぜなら、「比較」が存在しないからです。 これまでのデータを見ても分かるように、ワクチンを打ったからといって、リスクがゼロになるわけではありません。一定数の方はワクチンを打っても感染し、発症し、重症化し、場合によっては死亡します。 が、ワクチンを打っていない人と比べると、感染のリスク、発症のリスク、重症化のリスク、死亡のリスクなどは軒並み減っているのです。リスクをゼロにするのではなく、リスクを「減らす」のが目標なのです。 「減らす」というからには、「なにと比べて減っているか」という基準がなければなりません。それが「ワクチンを打っていない群」です。比較は必須なのです。同様に、「新型コロナワクチンをこんなに打っているのに、第△波がやってきた。だからワクチンは意味がない」といった意見を言う人がいます。これも素人の短見です。その波は、ワクチンを打ったおかげで小さく抑えられているのか、それともそうではないのかは、ワクチンを打っていない群との比較でしか、検証できません。 このように考えると、皆さんがラージメディアやソーシャルメディアで目にするあれやこれやの「主張」の根拠も、それなりに妥当性を持って吟味できます。「比較があるか、ないか」。比較がなければ、その情報の妥当性は低いものかもしれません。 写真/shutterstock 参考文献 (*1)Polack FP, Thomas SJ, Kitchin N, et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med 2020; 383:2603-2615. (*2)Bernal JL, Andrews N, Gower C, et al. Effectiveness of Covid-19 Vaccines against the B.1.617.2(Delta) Variant. N Engl J Med 2021; 385:585-594. (*3)Tsang NNY, So HC, Cowling BJ, Leung GM, Ip DKM.Effectiveness of BNT162b2 and CoronaVac COVID-19 vaccination against asymptomatic and symptomatic infection of SARS-CoV-2 omicron BA.2 in Hong Kong: a prospective cohort study. The Lancet Infectious Diseases 2022. Available at: https://www.thelancet.com/journ als/laninf/article/PIIS1473-3099(22)00732-0/fulltext(閲覧日2023年1月26日) (*4)Haas EJ, Angulo FJ, McLaughlin JM, et al. Impact and283出文庫、2013年 (*5)Doi A, Iwata K, Nakamura T, et al. Clinical outcomes of COVID-19 caused by the Alpha variant compared with one by wild type in Kobe, Japan. A multi-center nested case-control study. J Infect Chemother 2022; 29:289-293. (*6)de Gier B, Andeweg S, Joosten R, et al. Vaccine effectiveness against SARS-CoV-2 transmission and infections among household and other close contacts of confirmed cases, ---------- 岩田健太郎(いわた けんたろう) 1971 年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学医学部)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOS クリニック、亀田総合病院を経て、2008 年より神戸大学。神戸大学都市安全研究センター感染症リスク・コミュニケーション研究分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。『予防接種は「効く」のか?』『ワクチンは怖くない』『「感染症パニック」を防げ!』『丁寧に考える新型コロナ』『99・9%が誤用の抗生物質』『実践 健康食』『ぼくが見つけたいじめを克服する方法』(以上、光文社新書)、『新型コロナウイルスの真実』(ベスト新書)、『絵でわかる感染症with もやしもん』(講談社)など著書多数。 ----------