【松田聖子の“壮絶な学び直し”】想像を絶する苦しみを忘れ、虚無感を埋めるための猛勉強
人気連載「齋藤薫の美容自身 STAGE2」。今回は、今月のテーマ「松田聖子の“壮絶な学び直し”が、私たちに教えてくれたこと」の後編をお届け。 松田聖子の学び直しから「見えた気づき」とは?
想像を絶する苦しみを忘れ、虚無感を埋めるための猛勉強
ご存知のように3年前、聖子さんは長女である神田沙也加さんを亡くしている。その後は仕事量を極端に減らすほど傷心の極みにあったはずだが、逆に想像を絶するほどの苦しみを忘れ、果てしない虚無感を埋めるためにこそ猛勉強したのだとも言われているのだ。 小倉優子さんの場合も、3人の子どもを抱え、ましてや3人目を出産するかしないかのタイミングで2度目の離婚となっており、逆境の中での大学入試だったことは、どこか通じるものがある。 そこまで深く勉強の意味を考えたことはなかったが、学問には苦悩から人を救い出してくれる力があるのかもしれない。ましてや、覚悟の上の学び直しは、それこそ人生をやり直すくらいのスタンスで勉強に向かい合うわけで、ここで得た成果は間違いなく人生を変えるのだろう。景色が違って見えるほど視界が変わるのだろう。 ただ皮肉にも、勉強にそこまで大きな意味と意義があるのを知るのは、やっぱり社会に出てから。ましてや誰もがそれに気づくわけではない。気づけるのは、ほんのごく一部。本気で勉強に没頭できる人だけなのだ。そして昔はガリ勉をからかっていた人も、大人になるとわかる。知的欲求に駆り立てられた学習欲、これを持てること自体一つの才能で、人生の明暗を分けるくらい、かけがえのないことなのだと。 有名な心理学者が唱えた“マズローの欲求5段階説”という理論がある。その最下層に位置づけられるのが、いわゆる食欲、性欲、睡眠欲の3大欲求をまとめた「生理的欲求」。次の段階が、安全に生きたいという「安全欲求」、3段階目に、誰かと関わりたいという「社会的欲求」。4段階目に、誰かに認められたいという「承認欲求」。そして欲求ピラミッドの一番上位に位置するのが、もっと成長したいという「自己実現欲求」。多くの欲求を満たしても、さらに理想を追求し続ける人間が、本当の望みを叶えられるということ。この頂点に属するのが「学習欲」だと言ってもいい。もっと学んで、もっと知識を得て、もっと上のステージに行きたいと思う自己実現。そのためにはどうしたって学習欲が必要なのだ。 今の30代、40代にはあまりなじみがないかもしれないけれど、松田聖子という人は1980年代から常に時代の寵児であり続け、日本女性の意識を大きく変えた人。「握力の強い女」と言われたのも、すでに何もかも持っているのに、さらに欲しがり、すべてをしっかりと手中に収め、決して離さないというイメージから。結婚間近とも噂された郷ひろみとの破局を単独記者会見で涙ながらに伝え、「生まれ変わったら一緒になろうねと話し合った」という名言を残したが、そのわずか1ヵ月後に神田正輝との交際を認め、2ヵ月後に婚約、世間に衝撃をもたらしたことなど、別の意味で欲が強めとされてきた。ただ今回のことでその握力は、単なる欲張りという意味ではなかったことが見えてもきた。人間の5段階欲求に忠実に生き、成長をやめない証、それが中央大学法学部卒業だったのかもしれないから。本当の意味で人生の成功をつかむのは、まさにこの成長をやめない人なのだから。 大人になってから、仕事をしながらの勉強はもちろん容易なことではない。でも生きていく上で何か一つの大きな目標になるほど重要なことであるのを、この人は身をもって教えてくれた気がする。承認欲求のためでも、アピールのためでもない。あくまで人としてもっと進化したいという素直な気持ち、それはやっぱり経験も含めた学習でしか得られないもの。だからそのぶん、尊く素晴らしいものだということに、しみじみ気づかせてくれたのである。 苦悩から人を救い出してくれる力が、学問にはきっとある。ましてや、覚悟の上の学び直しで得た成果は、間違いなくその人の人生を変えるのだろう。景色がまったく違って見えるほど視界が変わるのだろう。 撮影/戸田嘉昭 スタイリング/細田宏美 構成/寺田奈巳 Edited by 中田 優子
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