浦井健治が「役者冥利に尽きる」高橋一生から受け継いだ“奇跡”の再演で「生きるとは何か」を問いかける
ミュージカルの役柄でキラッキラの王子様を演じたかと思えば、重厚なストレートプレイで権力と人間関係に翻弄される王を演じる、浦井健治さん。 【画像】浦井健治が「役者冥利に尽きる」高橋一生から受け継いだ“奇跡”の再演 役者としての振り幅の広さ、そして常にチャレンジし続ける姿勢に、ファンだけでなく、共演者や演出家、プロデューサーといった仕事仲間の方々からも「ぜひ、この役を浦井さんに」というオファーが絶えません。 この度挑戦するのは、4年前に上演された『天保十二年のシェイクスピア』。インタビュー前篇では再演にあたっての意気込みや役作りなどについて伺いました。
2020年、志半ばで上演中止になった想いを抱えて
――『天保十二年のシェイクスピア』には、2020年上演時もご出演されていて、今回は再演への出演ですね。まずはお気持ちをお聞かせください。 まさか、このようなオファーを頂けるとは思ってなかったので、役者冥利に尽きるというか、本当に光栄だと思いました。それも、「佐渡の三世次」としてなので驚きました。初演の空気をわかっているというのもあって、今回のお話をいただけたと思います。 前回、きじるしの王次として三世次と対峙していましたが、まさか三世次を演じるとは思ってもいなかったので、最初は驚きで、「ちょっと考えさせてください」って。そうなりますよね(笑)。 ――浦井さんにとっては驚きだったのですね。 しばらく考えてお返事しました。当時はコロナ禍の影響で、志半ばで東京公演は中止になり、大阪では上演が叶いませんでした。「いつかまたみんなで」という想いはずっと抱いていましたし、もう一度大切なメッセージをお客様に伝えたいという気持ちで挑むことができるので、今回の再演は“奇跡”だと思っているんです。 4年前の藤田さん演出の初演をすごくリスペクトしていると同時に、僕は高橋一生さんが演じられた三世次が大好きでした。
高橋一生さんが演じられた三世次が大好き
――初演時のインタビューなどを拝見していても、そうコメントされていました。 原作を書かれた井上ひさしさんは、リチャード三世とハムレット、いわゆる三世次ときじるしの王次を“対”として、同時に時代を映す鏡でもあり、時代の風刺でもある、と役柄を描かれていると思うのですが、それを両役させていただけるのは、本当に役者冥利に尽きるといいますか……。 これは井上ひさしさんのメッセージを代弁して、木場さんが演じられる隊長が「今の時代はどうですか? 生きづらくないですか?」ということを問いただしながら、「それでも生きていく」ことを絢爛豪華な音楽劇として昇華することの意味を考える壮大なお話です。それを今の時代に演じるからこそ意味があると、僕は思っていて。 ――高橋一生さんが演じられた三世次を、ご自身の役作りにはどう生かそうと思われていますか? 僕は新国立劇場の歴史劇シリーズでヘンリー四世、五世、六世、七世を演じてきた中で、ヨーク家のリチャード三世の“異質さと純粋さ”にも触れてきました。一生さんの三世次は、淡々と人を殺したり、飄々と惨殺したりという印象もあって。 権力を求め、上りつめていく“強欲さ”みたいなものが狂気的に描かれていましたが、きっと本当は権力なんてどうでもよくて、母親に認められたかったというような、切ない想いも抱えていたのが一生さんの三世次かなって。生まれ落ちたこと自体に劣等感があって、誰も認めてくれなかったとしても、人間には“欲”が生まれる。権力に、というよりは“熱”に飢えていたというか、愛に飢えていたというか……。 ――側でずっと高橋さんの三世次を観ていらしたからこその解釈ですよね。 シェイクスピアはどんな解釈でもいいよ、と投げかけてくれているので、観客はリチャード三世に魅了されているんだと思うんです。一生さんの三世次、そして唐沢寿明さんや上川隆也さんが演じてこられた三世次、いろんな人の三世次があると思うのですが、自分はどう受け取られるのか。演出の藤田さんの情熱に応えられるように頑張りたいです。