浦井健治が「役者冥利に尽きる」高橋一生から受け継いだ“奇跡”の再演で「生きるとは何か」を問いかける
赤裸々なシーンも多い戯曲を、演劇体験としてライブで感じてほしい
――いのうえひでのりさんや蜷川幸雄さんなどの演出家によって上演されてきた『天保十二年のシェイクスピア』ですが、この作品の魅力を浦井さんはどのように感じていらっしゃいますか? この作品のメッセージの最も強いところは、「今の時代、その生き方で満足ですか。生きやすいですか。生きるってなんですか」そういう問いかけが井上ひさしさんから聞こえてくることだと思います。 だから、人によっては“死”がテーマにも見えるし、“生きる”がテーマに思える人もいる。性がテーマと捉える人もいるでしょうし、いろんな見え方があると思うんです。それを“天保”という時代で描かれているところに井上さんの遊び心があったりして……。そういうところが魅力でしょうか。 ――天保という時代もそうですが、シェイクスピアは少しハードルが高くて……という読者もいそうです。予め、こんな準備をしていくといい、というのはありますか? 4年前の上演時は、事前の知識がなくとも、お客様が純粋に作品として楽しまれているのをすごく感じていました。 また、この作品はかなり赤裸々に性の描写や人を殺めるシーンが描かれます。それだけでなく、その先にある欲や権力への抗い、生まれながらに持つ劣等感や貧困など、そういった人間のすべてが描かれているというのも見どころです。 演劇は学びの場でもあると思うんです。劇場に来て、作品を観るその数時間で自分が少し変わっていた――それが理想の演劇だよね、と諸先輩方がおっしゃっていたのが印象的で、その演劇体験が起こり得るのがこの『天保十二年のシェイクスピア』かと。ぜひ緊張せずに観に来てください! ――浦井さんはあまり“極悪人”というイメージを演じている印象がなく、どちらかというと“王子様”の印象なのですが、ご自身と役柄の乖離はどうやって埋めていかれるのですか? まだやっていないのでわからないのですが(笑)。三世次がやっていることは自分の中で整合性が取れていて正義であり、もしくは何も考えてないかもしれない。 そこに周囲の目や権力、周りからの見え方というのがあったにせよ、人間というのはさほど変わりません。ただ、醜いとか強烈に人から虐げられているとか、そういう境遇からスタートしているだけであって、中身は変わらないんです。僕が前回演じた、きじるしの王次でも、思っていることは一緒だったと思います。 浦井健治(うらい・けんじ) 1981年8月6日生まれ、東京都出身。2000年『仮面ライダークウガ』(EX)で俳優デビュー。2004年『エリザベート』ルドルフ皇太子役に抜擢。以降、幅広いジャンルの作品に出演。第22回読売演劇大賞最優秀男優賞、第67回芸術選奨文部科学大臣演劇部門新人賞など数々の演劇賞を受賞。舞台以外にも、23年3月には3rdアルバム「VARIOUS」をリリースし、東京・大阪にてソロコンサートを開催するなど多彩な活動を展開している。
前田美保