材木座に現れた、肩の力の抜けた海街の気軽さと都会のクールさが混在するカフェ&レストラン
鎌倉だから、おいしい 第二章 #16
鎌倉で育ち、今も鎌倉に住み、当地を愛し続ける作家の甘糟りり子氏。食に関するエッセイも多い氏が、鎌倉だから味わえる美味のあれこれをお届けする。昨年秋、材木座に出現し、瞬く間にランドマーク的存在となったコンクリート造りの建物。その2階にあるカフェ&レストランで出会える「絶品」とは 〈画像多数〉センスあふれる空間と絶品イタリアンメニューの品々
材木座のランドマーク的存在になったグレーの建物
「鎌倉の暮らしってどうですか?」 鎌倉に移住を考えている人から時々相談を受ける。 迷っている人には、山もあって海もあって、けれど街の楽しみもあるから楽しいよ、湿気と塩害もあるけどね、といって背中を押している。コンパクトにまとまった旧市内エリアだけでもさまざまな個性のお店があって、もはや鎌倉にないのはディスコ(って、今は言わないか)とSMクラブくらいかもしれない。 つまらない冗談はさておき、材木座にアーツ&サイエンスがオープンしたのは2023年の秋。海岸からほど近い風景の中にコンクリートの素っ気ない建物が現れ、のどかな街はざわついた。少し前まで薬屋さんだった場所はそこだけ切り取ったように都会だった。 アーツ&サイエンスはスタイリストのソニア・パークさんが手掛けるセレクトショップ。それまでは青山や代官山、京都に福岡などの「大都会」(比較対象・鎌倉)にあって、鎌倉に出店するとは意外だった。 洋服やバッグ、小物から、お香やキッチン周りのもの、家具まで暮らしにまつわるものが広く扱われていて、セレクトはどれもが上質かつシンプル、なんだけれど時々遊び心というエッセンスが一滴垂らされている、といったら伝わるだろうか。鎌倉でこのセンスに触れられるという喜びの中にも、果たして風通しの良すぎる潮風の街と馴染むのだろうかという不安がちょいとだけあった。 しかし、そんなおせっかいな心配は無用だった。気がつくと、都会的なグレーの建物は材木座のランドマーク的存在になっていた。 2階はアーツ&サイエンスが経営するカフェ&レストラン「セカンドフロア」で、その存在が大きいと思う。都内の人気イタリアン出身の長尾明シェフが切り盛りしており、ショッピングだけでは敷居が高そうなこの空間をぐっとこちら側に引き寄せる役割をしてくれる。 ランチはもちろん、待ち合わせだったり一息つきたい時だったり、利用の仕方はその時々、人それぞれ。ランチはイタリアンに収まらず、山椒ダルカレーやファラフェルピタサンドなどエスニックなものもあって、いつも迷ってしまう。 ちなみに、こちらで使われているコーヒー豆は「グッドグッディーズ」によるもの。鎌倉発の同店も負けず劣らずスタイリッシュなコーヒーショップだ。