まるで野村克也氏の〝再生工場〟 適材適所で選手の能力を引き出す町田、昇格即J1制覇へ進撃
サッカーのJ1に初挑戦している町田が奮闘している。首位を争う快進撃を支えているのは、昨季はくすぶっていたFW呉世勲(25)、MF柴戸海(28)ら新加入組だ。チーム戦術にフィットする特長を持った選手を獲得し、適切な働き場所を与えて能力を引き出す-。クラブの強化部門と黒田剛監督(54)の確かな眼力をベースとしたマネジメントは、プロ野球で数多くの選手を再活躍させた故・野村克也氏の〝再生工場〟をほうふつとさせる。 【写真】4月21日のFC東京戦で競り合う町田の仙頭 チームトップタイの6ゴールを挙げている呉世勲は、得点源にとどまらない大黒柱だ。堅守から少ない手数でゴールに迫る戦術の要で、攻撃の多くは194センチの長身ストライカー目掛けてほうり込まれるロングボールから始まる。キープできなくても競り合ったボールを周囲が拾うスタイルは、シンプルながら他クラブを苦しめている。 韓国で年代別代表歴のある呉世勲はJ2清水でプレーした昨季、不本意なシーズンを送った。同僚FWにチアゴサンタナ(浦和)という絶対的エースがいたこともあり、出場機会は25試合、計697分にとどまった。先発はわずか6試合でベンチ外も珍しくなかったのだから、能力を信じて獲得に動いた町田の強化部門、適切な起用法を見出だした黒田監督の手腕は見事だ。 ボランチの柴戸も再生した。昨季までプレーした浦和でもボール奪取力には定評があった。しかし、なかなか前方へパスが入らずにつなぎ役としては物足りず、出場時間はわずか8試合、計141分だった。町田ではボール奪取に特化した役割を与えられ、水を得た魚のように躍動している。 柴戸とボランチでコンビを組み、主につなぎ役をこなしているのがMF仙頭啓矢(29)だ。昨季は柏での出場時間が26試合、計1089分だったプレーメーカーには、限られたスペースでも前を向ける技術があって次々に好機を演出。柴戸が奪ったボールを仙頭が巧みに配給するのは、呉世勲のポストプレーとともに町田の攻撃パターンとなっている。 センターバックのDF昌子源(31)も息を吹き返した。2018年ワールドカップ(W杯)ロシア大会日本代表も、鹿島でプレーした昨季の出場時間は21試合、計644分にすぎなかった。復活を期して新天地に選んだ町田でいきなり主将に就任。5-0で大勝した5月19日の東京V戦後に「優勝を狙わない理由はない」と述べるなど、強烈なリーダーシップでチームをまとめ上げている。
攻守にゴールと近く、得失点に関わることが多い中央付近でプレーするセンターフォワード、ボランチ、センターバックで、再生した実力者たちが町田を力強くけん引している。「J1の優勝争いって、序盤の勢いのままいくことが多いと思いませんか」と報道陣に問いかけたのは昌子。シーズンは折り返しすら迎えていないとはいえ、J1初挑戦シーズンでの優勝という離れ業も夢物語ではないかもしれない。(運動部 奥山次郎)