ロースタリー 東京の建物をイメージした「JIMOTO Made+ 墨田江戸切子グラス」が登場!
東京・中目黒にあるスターバックス リザーブ(R) ロースタリー 東京(以下、ロースタリー 東京)の「JIMOTO Made+」に、2024年5月10日、新作が4つ同時に登場した。東京の墨田区や江東区を中心に作られている江戸切子のグラスは、そのうちのひとつだ。 廣田硝子が制作する江戸切子のグラスの一部 「JIMOTO Made+」は日本の工芸・産業を次の世代に残すため、商品の背景にある文化、職人の情熱や技術をロースタリー 東京から全国へ発信していきたいという想いを込めた商品シリーズ。今回の商品を手掛けた墨田区のガラスメーカー・廣田硝子を、ロースタリー 東京のパートナー(従業員)と共に訪ねた。 ■日本文化と西洋技術が融合して生まれた江戸切子 江戸切子は、ガラスの表面に施された精巧なカットと、そこに当たる光の屈折が生み出す輝きが魅力だ。その始まりは、1834年に江戸大伝馬町のビードロ屋・加賀谷久兵衛が金剛砂を用いて彫刻を施したことだとされる。明治時代には政府主導でイギリスから技術者が招聘され、ヨーロッパのカットグラスの技法を取り入れて技法が確立された。 矢来、菊、麻の葉など20種類ほどの伝統的な紋様が今も伝わり、西洋技術に日本の文化や美意識が融合し美しい造形になっている。1985年に東京都の伝統工芸品に、2002年には国の伝統的工芸品に指定。近年は東京スカイツリーのエレベーターやホテルのロビーなどに切子を施したガラス板が用いられ、装飾としての注目も高い。 今回訪ねたのは、創業125年、都内で最も古いガラスメーカーのひとつである廣田硝子だ。2004年に江戸切子工房ショップ「すみだ江戸切子館(R)」を開設。工房見学や切子作り体験などを通し、江戸切子の認知度アップに尽力している。 190年もの間途絶えることなく、脈々と受け継がれてきた理由を、社長の廣田達朗さんはこう語る。 「墨田区や江戸川区は昔からガラスなどの産業が集まる町。江戸切子が今日まで残っているのは、藩の庇護を受けて栄えた薩摩切子とは異なり、下町で育まれてきた産業のため小回りがきく小規模な会社が多いという面があるのではないでしょうか」 食器類だけでなく、皇居や国会議事堂の照明などにも江戸切子が採用されていると言い、東京の文化に深く根付いていることがうかがえる。 ■ロースタリー 東京の建物をイメージしたモダンなデザイン 今回登場したのは、「JIMOTO Made+ 墨田 江戸切子グラス237ml」(4万4000円)。アイスコーヒー以外にも、酒、デザートなど日常に使い勝手のいいロックグラスだ。透明度が高く光の屈折が美しいクリスタルガラスに、繊細な切子を施し、グラスから切子にいたるまですべてハンドメイドの逸品だ。 江戸切子は透明なガラスに、厚さ1ミリ以下の薄い色ガラスをかぶせた二重ガラスに施される。彫りを加えて透明なガラスが見えることで紋様になる。厚みのある被せガラスを削る薩摩切子は“ぼかし”と呼ばれるグラデーションのような色合いになるのに対し、江戸切子は被せガラスが薄いためシャープな輝きになるのが特徴だ。今回の商品は厚さ0.3ミリの青い被せガラスに伝統的な紋様を使い、ロースタリー 東京をデザインしている。 星のような麻の葉紋様の中央に、斜めの線状にあられ紋様を組み合わせ、ロースタリー 東京の建物を表現。麻の葉は4層階の建物を、あられ紋様は折り紙をモチーフにした天井をイメージしている。 縦に施された滝縞紋様は店の前を流れる目黒川であり、ロースタリー 東京の建築で目を引く格子状の庇でもある。 全体的にアシンメトリーになったモダンなデザインで、ロースタリー 東京の多面的な要素が表現されている。 廣田さんは今回の商品を、江戸切子だけでなく広く“和ガラス”に親しんでもらうきっかけになってほしいと語る。さまざまな技法やデザインで酒器、醤油さし、照明など日本の文化と共に発展した和ガラス。「国内にガラスメーカーはそんなに多くない。海外からの製品がたくさん入ってきますが、日本で作るガラスを残していきたい」と願う。 ■一つひとつ手仕事で刻まれる紋様 「JIMOTO Made+ 墨田 江戸切子グラス237ml」の繊細なカットは、江戸切子職人により一つひとつ手作業で施される。すみだ江戸切子館を訪ねると、声をかき消すほどのガラスを削る音が響く中で、集中して作業する職人たちの姿がある。「手作りされたグラス自体のわずかな個体差を職人が感じ、手作業で調整ながらカットするので、機械化をするのは難しいんですね」と廣田さん。 江戸切子の制作工程には主に、割り出し、削り、磨きがある。切子の紋様を入れる目安となる縦横の線を入れるのが、割り出し。デザイン全体が書き込まれるのではなく、職人はこの線だけを目安にカットを施す。 削りにはさらに粗削り、三番掛け、石掛けという工程がある。ダイヤモンドホイール(回転する鉄製の円盤)で、まずは基本的な線や面を削る粗削り。さらに細かいカットを施す三番掛け、カットした面を平たんに仕上げる石掛けとなる。 また、ダイヤモンドホイールには溝をV字に彫る菱山、丸みのあるカマボコなどの種類があり、線の太さや紋様により付け替えて細かな切子を施していく。廣田さんによると「細かな作業なので、1人の職人で1日にカットできるのは3個から6個くらいです」と言い、仕上げまでを考えると1日に1個から3個ほどしか制作できないというので、江戸切子が高価になるのも納得だ。 カットしたガラスの表面は粗く白いが、仕上げに磨きをかけることで透明になり、切子の輝きを生む。磨きには「手磨き」と、薬品を用いる「酸磨き」があるが、すべてを手仕事で行う廣田硝子では、もちろん手磨き。円盤にゴムやブラシをつけて回転させてグラスを押し当て、一つひとつ丁寧に磨いていく。 「手間はかかりますが、手磨きだと輝きがよりシャープになるんです」と、その理由を教えてくれた。 ■職人の技が切子の価値を生む 「切子のデザインにはパターンがあり、それを組み合わせて依頼主のイメージに近いものを作ります。いちばん難しいのは、その“イメージ”の段階です。今回の商品はガラスにデザインを描いて渡し、フィードバックしてもらうというのを繰り返しました」と語るのは、この道34年になる江戸切子職人の川井更造さんだ。 ガラスの透明部分が増えることで光の屈折も増え、切子は光沢を放つ。 「一般的に2/3は削り落としたほうが明るいグラスになります。今回は色を多めに残したいという要望がありましたが、その中でも明るくなるよう、麻の葉の中に斜めにあられ模様を組み合わせることを提案しました」 柄が組み合わさっている分、デザインが複雑になり、作業にはより集中力が必要だという。しかし、最低限の割り付けで作業できるのは、「頭で組み立てられないデザインは作れない」からだと語る。 「最初は細かく割り出しを書きますが、そのうち頭の中にイメージが映像のように出てくる。そうすると、細かな割り出しはいらなくなるんです」 では、切子制作のおもしろ味はどこだろう。 「プラモデルは箱を開ける前がいちばん高くて、作ると0円になる。逆に、江戸切子は職人がガラスに切子を施すことで価値が出ます。同じ道具を使ってもできる人とできない人がいますし、2~3年でここまでできるようにはならないので、やめていく人もたくさん見てきました」 まさに江戸切子は職人の技そのもの。日々研鑽を積み重ねた結果が、この一つひとつのグラスにすべて現れているのだ。 今回の訪問したロースタリー 東京のパートナーも「手に取った瞬間の輝きに目を奪われた」と言う。 「機械に置き換えられない作業がたくさんあり、それを手作業でしていただくありがたみを感じました。切子製作体験もさせていただきましたが、自分が体験で入れた切子と、職人さんの切子とでは、輝きが全然違う。きめ細やかな職人技でした」 190年もの年月を経て今なお輝きを放つ江戸切子。「JIMOTO Made+ 墨田 江戸切子グラス237ml」の繊細な切子を見つめていると、ロースタリー 東京のこれまでのストーリーを語り掛けてくるようだ。お気に入りの飲み物を入れて、江戸切子と共にゆったりとした時間を過ごしてみたい。