魅了し魅了されるダンスとジュエリー 振付芸術の支援が創造の循環を生む
2024年秋、ハイジュエリーメゾン、ヴァン クリーフ&アーペルが日本で「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」フェスティバルを開催した。モダンダンスとコンテンポラリーダンスを支援し、新たな振付の創作を奨励することを目的に2020年に始動したダンスフェスティバルだ。 2022年3月のロンドンを皮切りに、クリエイティブな振付家や団体などとコラボレーションしながら2023年には香港とニューヨークで開催され、今秋に日本初上陸。彩の国さいたま芸術劇場やロームシアター京都などを舞台に、ダンス公演、アーティストとの交流イベント、写真展など、多彩なコンテンツを通してコンテンポラリーダンスの世界を届けた。 その一環で10月末、ジュエリーと宝飾芸術の学校「レコール」の講師と舞台評論家によるエキシビショントークを開催。舞台芸術とメゾンが紡いできたダンスとジュエリーの関係性を読み解いた。 ◾️魅了し魅了されるダンスとジュエリー 「レコール」は、パリの本校を拠点に世界各地でジュエリー文化を広く一般に広めるべくヴァン クリーフ&アーペルの支援のもと2012年に創設された学校だ。ジュエリーの歴史やサヴォアフェール、原石の世界をテーマに、講義やインタラクティブ トーク、子ども向けワークショップ、無料の展覧会を開催するほか、書籍や動画、オンライン教育ビデオなどの制作も行っている。 新国立劇場で行われたトークでは、芸術史家でレコールの講師を務める王笑佳と、舞踊評論家として活躍する岡見さえが登壇。卓越した技術と洗練された表現の追求という点で共通するダンスとジュエリーについて、17世紀から現代に至るまで、西洋を軸に日本の歴史も振り返りながら、インスピレーションの交差を探った。 例えば日本の歌舞伎について、その装飾の意味を岡見さえは次のように解説する。
3つの宝石をテーマにした演目も
「歌舞伎というのは歌・舞踊・演技を表し、ダンスも一つの重要な要素です。舞踊に使われるアクセサリーはそれぞれ意味を持ち、役割を表します。赤い着物を纏い重い髪型をした女性はお姫様の典型的なスタイルで、頭上には花の周りに蝶が飛んでいる大きなアクセサリーを飾っています。もう一方の女性は豪華なべっ甲の簪をさしており、これは遊女のアクセサリーとして位の高い芸者・傾城(けいせい)を表しています。アクセサリーによって、その人の役柄やアイデンティティが見えてきます」 14世紀にイタリアで始まったとされるバレエは、常にジュエリーのインスピレーション源となってきた。ヴァン クリーフ&アーペルも、18世紀に活躍した革命的なバレリーナ、マリー・カマルゴを表現した「バレリーナ クリップ」などを発表している。 その歴史のなかでも重要人物が、20世紀に活躍した元バレエダンサーで振付家のジョージ・バランシンだという。彼はメゾンの宝石にインパイアされてあるバレエ作品を創作した。 「彼がニューヨーク・シティ・バレエ団のために制作した『ジュエルズ』という作品があります。『ダイヤモンド』『エメラルド』『ルビー』という3つの宝石に捧げられた全3幕からなる作品です。それはそれぞれ、彼の生まれ故郷でバレエと出会ったサンクトペテルブルグ、振付師としてのキャリアを開花させたパリ、華やかで活気に満ちたニューヨークと人生の決定的な意味を持つ3都市へのオマージュにもなっています」(岡見) アール・ヌーヴォー時代のパリで活躍し、モダンダンスの世界を切り拓いた伝説の舞踊家、ロイ・フラーについても触れた。彼女が創案した「サーペンタインダンス」は、全身を覆う特殊な衣装を自在に操り、花や蝶へとフォルムを変容させ、見るもののインスピレーションを掻き立てた。照明効果も用いたそれは、新しい表現として当時一世を風靡。今回、ダンス リフレクションズのフェスティバル公演の一つとして振付師、オラ・マチェイェフスカによって再解釈された作品が紹介された。 西洋におけるジャポニズム、バレエからモダン/コンテンポラリーダンスまで、時代とともに変化しながら、刺激し合い、人々を魅了する舞踊とジュエリーの世界。ダンスや観劇は芸術のなかでも多くの人にとって馴染みのうすい部類にあるが、こうした取り組みによりダンスのレパートリーや鑑賞者が増えることは、振付芸術、そして宝飾芸術といった多様な面で、新たな創造につながっていくのだろう。
Forbes JAPAN 編集部