エモ/ポップパンクのリバイバルはいつまで続く? 「When We Were Young Festival」レポ
エモとポップパンクの音楽フェス「When We Were Young Festival」(以下WWWY)が、米ラスベガスで10月19日と20日におこなわれた。若かりしあの頃を求めて世界中からファンが集う「エモ版のコーチェラ」といっても過言ではない同イベントだが、2022年の第1回目から数えて3回目となる2024年も大盛況だった。2025年もPANIC! AT THE DISCOとblink-182をヘッドライナーに迎えて開催が決まっている同フェス。その実態を今年のレポートを通して探ってみよう。 【My Chemical Romance、Fall Out Boyらのライブ写真を見る】 2022年にアナウンスされた際はポップパンクとエモシーンを賑わせたおよそ60組ものアクトをたった1日でどうやって回せるのか、と懐疑的な意見すらあったWWWYは、初年度の初日こそ強風により開場目前で中止となったものの、同年は残り2日間を無事開催。今年も無事大盛況の内に幕を閉じた。公表はないが、6万人収容規模の会場が2日間ソールドアウト、つまり、10万人ほどのファンが集結したと推測される。 ・エモの名作を完全再現 今年の特色は出演バンドの大半がなつかしのアルバム1枚をフィーチャーするというコンセプチュアルなもので、中でも、ヘッドライナーのMy Chemical Romanceが『The Black Parade』(2006年)をフル演奏するとあって、会場には同作品をイメージしたコスプレイヤーがあちこちに見受けられた。その中の一人に声かけをしてみたところ、「当時は観られなかったので再現は夢が叶ったみたいで嬉しい」と語っていた。 メインステージに出演したA Day To Rememberは2009年リリースの代表作『Homesick』のフル演奏し、「歌うのが難しいんだよね」と漏らして見事歌い切った「Welcome to the Family」も印象的だった。懐かしの『Bleed American』(2001年)フル演奏で30代後半から50代の観客の涙腺を崩壊させたJimmy Eat Worldもいたが、蓋を開けてみればアルバム1枚をフル演奏というフォーマットをやりきったバンドと代表曲を織り交ぜただけのような構成のバンドも散見され、少し肩透かしを食らったとの声も上がった。 ただそんな中でもテイラー・スウィフトのEras Tourばりに『Take This to Your Grave』(2003年)から最新作まで全8作品を順に辿り、「The Phoenix」ではステージから20メートルほどの観客に熱気が届くほどのパイロを放出したり、ヘッドラインのマイケミの代わりに花火を打ち上げまくるなどしながら23曲も披露したFall Out Boy(FOB)のステージはフェスの枠を超えた豪華さがあった。 また、10年ぶりにステージに登場したCobra Starshipは映画『スネークス・オン・ア・プレーン』の主題歌「Bring It! (Snakes On A Plane)」にちなんだ飛行機セットにキャビン・アテンダント姿のコーラス隊を迎え、同曲参加のトラヴィス・マッコイはもちろん、「Guilty Pleasure」でFOBのパトリック・スタンプも登場して大盛況。反面、同フェスにはそんな復活組に対して「俺たちは25年ずっと走り続けてきた!」と声高に叫びつつも今年のコンセプトに沿って『In Love And Death』(2004年)をフル演奏したThe Usedをはじめとする“生涯現役組”も熱狂的に迎えられた。ただそんな中で苦戦していた印象を受けたのはベテランの次を担う若手たち。普段は大きなサークルピットを続発させるNECK DEEPは、観客の静かな動きに対し、苦笑混じりに「そうか、これはエモフェスだもんな」とボヤく場面も。 ・『The Black Parade』の呪縛 2006年12月にリリースされたエモシーンの金字塔である『The Black Parade』は、日本武道館での完全再現を含めたツアーを2007年10月7日、メキシコシティで締め括り、『The Black Parade Is Dead!』という記録作品を出して封印されたはず。それを完全パフォーマンスとして復活させるのは当時を知らないファンにとっては叶わぬ夢が叶った喜びがあったかもしれないが、当時彼らと共にあの壮大な物語を涙ながらに葬送したファンの中には複雑な思いを抱えていた人も少なくなかったはず。 しかし、右隣のステージでカラフルかつド派手なステージを繰り広げるFOBとは対照的なシンプルすぎるステージに、延々と調整される影と光のレベル。ジェラルド・ウェイの立ち位置に伸びる影の調整がとにかく丁寧に行われていたのが印象的だったが実際のステージもキアロスクーロ(イタリア語で明暗法)を取り入れ、当時とは全く異なる演出ながら原曲を尊重したアレンジを披露した。2年前の復活ツアーでは時にチアリーダーからナース、そして同フェスでは老人メイクなどを披露していたが、今回は黒シャツに仕立ての良い黒のスラックスというシンプルな出立ち。「Famous Last Words」のMVを思わせるようなパイロの演出もなければ、2年前のWWWYのラストに降らせた札束の吹雪も見られなかった。まるで『The Black Parade』をバンド自らが誠実に向き合うための儀式のようでもあり、同作がバンドにもたらした明暗を具現化しているようでもあった。マイケミは同フェス終了から1カ月も経たずに2025年夏に“LONG LIVE(長生き)”THE BLACK PARADE NORTH AMERICAN TOURが発表している。 ・2025年も実施予定だが…… 過去3年の例に漏れず、すでに次年度の開催とラインナップを発表しているWWWY。次回の目玉は、2023年1月に解散したPANIC! AT THE DISCOが復活してデビューアルバムにして代表作『A Fever You Can’t Sweat Out』(2005年)のリリース20年を記念して行うフル演奏。コ・ヘッドライナーのblink-182は2023年に続いての出演だが、P!ATDは元々blinkのカバーバンドだったことを考えると感慨深いものもある。しかし、一つの懸念としてファンの間で心配の声が上がっているのが、WWWYの大成功をきっかけに生まれた、NU METALフォーカスのイベント、SICK NEW WORLD(SNW)の来年度の開催がキャンセルされたこと。具体的な理由は明らかにされていないが、両イベントのチケットセールスのスタイルはまずDAY 1の売れ行きの需要に合わせてDAY 2、はたまた初年度のように翌週末にDAY 3を追加する、いわば需要に合わせて売り続けるスタイル。SNWはMetallicaとLinkin Parkという大玉を従えたものの、NU METALには1ミリも属さないバンドをブッキングしたことによりコンセプトにブレが生じた結果ことが少なからず影響しているように思う。対してWWWYはエモそしてポップパンクというジャンルのコンセプトからは外れてはいないが、4年目ともなると新鮮味が薄れてしまった印象は否めず、DAY 2のウェイトリストは開いているものの2024年12月末の時点でDAY 2はオフィシャルに販売されていない(DAY 1はソールドアウトとなっている)。2025年度もラスベガスのど真ん中で無事に開催されるかどうか、注目していこうと思う。
Aya Miyahara