「殺人メガ台風」が次々と日本列島を襲う最凶シナリオ…サイズは巨大化&動きも″鈍足″で予測不可能に
未曾有の天災を前に、住民はなすすべもない
「瓦が飛んできて屋根に穴があき、雨漏りしています。停電してしまったので、お客様からの問い合わせを受けることもできませんでした。30年以上ここで理容室をやっていますが、こんな経験は初めて。強風で自宅の屋根が吹き飛んだという常連さんもいました」 【衝撃写真】なすすべなしで街一帯が冠水した地域も…台風「10号」の脅威 宮崎県宮崎市の理容室「BarBer NikoNiko」の店長山崎聖氏(せいじ)さんは、「史上最強台風」の脅威をそう振り返った。 8月29日、中心気圧960ヘクトパスカル、最大瞬間風速55m/sという猛烈に強い台風「10号」が鹿児島県に上陸。電柱をへし折り、何軒もの家屋を倒壊させた。暴風で最大約28万戸が停電。総雨量900ミリを超える豪雨で土砂災害、道路の冠水、河川の氾濫が日本各地で多発した。 ◆これまでの台風とは”異なるもの” 死者8名、ケガ人129名、3万人もの避難者を出した台風10号は、日本がこれまで経験してきたものとは″異なるもの″だった。その特徴として、まず挙げられるのが「ジョギング並み」といわれる速度の遅さ。上陸後3日間の長きにわたって九州や四国に停滞したことによって、豪雨や強風の被害が拡大した。気象予報士の村山貢司氏が、″鈍足″台風のメカニズムを解説する。 「通常、南海上で発生した台風は放物線を描くように北上します。九州に上陸し、近畿地方から日本海に抜けるのですが、台風10号は九州に上陸した後、北東に進む途中で南下して四国に上陸しました。東から張り出した強い太平洋高気圧に遮られ、北東に進むことができなかったのです。台風は偏西風に押されて東進するのですが、今夏は偏西風が弱く、東に進むこともできなかった。こうした要素が重なったことで、鈍足で、専門家でも進路の予測が難しい台風となってしまったのです」 長期化と″迷走″に加え、今年の台風に共通しているのが「サイズの大きさ」だ。10号よりさらに凶暴な最大瞬間風速60m/sの台風7号が関東に接近したのは、つい2週間前のこと。前出の村山氏は、「今後、10号を凌駕するサイズでかつ、進路の予測が非常に難しい台風が、次々と発生してもおかしくありません」と警告する。 「原因は、海水温の高さにあります。雨雲は海面から蒸発した水蒸気で作られますが、近年は温暖化の影響で海水温が上昇して大量の水蒸気が放出され、巨大な雨雲が生まれやすくなっています。その雨雲の上を台風が通過することでエネルギーが大きくなり、風や雨が激甚化するのです」(同前) ◆10号を凌駕する台風が続発 実際、’23年の日本近海の月平均海面水温は、8~12月の5ヵ月連続で観測史上1位の数字を記録。今年7月にも同月としては過去最高の数字が記録され、海水温の上昇は今後も続いていくとみられている。また、日本気象協会が発表したデータによれば、9~10月の台風の予想発生数は最大で11個と、予断を許さない状況だ。前出の村山氏が続ける。 「今年は日本の南海上から赤道付近にかけて全体的に海水の温度が高く、勢力の強い台風が発生しやすい。最初は小さな低気圧でも、大量の水蒸気を取り込んで大型の台風に成長する可能性が高いのです。実際、今年8月8日から13日にかけて、4つの台風が次々に発生しました。9月から10月にかけては最も注意が必要でしょう。気温と海水温のピークにはズレがあり、海水温が最も高くなるのは9月だからです」 一般的に、9月以降は偏西風が南下することによって台風が近畿や関東を直撃する傾向が高まるといわれている。台風10号を超える「殺人メガ台風」が次々と日本列島を襲う――。そんな悪夢が、現実味を帯び始めているのだ。防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏が、「今までの台風のイメージで備えていてはダメ」と警鐘を鳴らす。 「10号はサイズの大きさはもちろん、被害が長期化したことが厄介でした。国は河川の護岸を整備したり、傾斜地の土が崩壊しないようモルタル吹き付け工事をするなどの対策をしていますが、行政の想定を超える風雨に襲われるので意味をなさない。 今回、関東で冠水の被害が頻発したことからも明らかなように、台風から離れた場所にいても安心できません。早期に避難することが大切です」 近年の気象庁の台風への対応の変化にも、危機感が表れているという。 「気象庁は頻繁に会見を行って、『命の危険があるから避難してください』などと強い口調で呼びかけています。以前なら、こんなことはなかった。警報や注意報を出すだけで、今のような警告はしなかった。それが最近は、気象図を使って説明しながら、台風の危険性を積極的に発信している。防災意識が高くなったという意味で素晴らしいことであると同時に、日本の災害がそこまで深刻化しているということの表れでもあると思います」(前出・村山氏) 台風10号の襲来は始まりにすぎない。「殺人メガ台風の波状攻撃」という最凶のシナリオが起こりうる最悪の季節が、すぐ目の前に迫っている。 『FRIDAY』2024年9月20日号より
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