「なぜ俺はフィレオフィッシュが好きなのか…」どうしても上手く言語化できなかったので、本の力を借りて全力で語ってみたら世界が開けて孤独になった(レビュー)
「すごく感動したのに、おもしろかったしか言葉が出てこない!」 「大好きなものについて「なんで好きなの?」と聞かれると、うまく言語化できずもどかしい」 これらは誰しも一度は抱えたことのある悩みではないでしょうか。 そのような悩みをまさに言語化していると話題の書籍が、『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』(三宅香帆・著)です。 『変な家』シリーズが大ヒットした作家の雨穴(うけつ)を生んだ人気WEBメディア「オモコロ」編集長の原宿さんは、大好きなハンバーガーの魅力をうまく語れない事態を憂慮して、同書に手を伸ばしたそうです。全力で言語化に向き合った結果、どんな顛末を迎えたのでしょうか――。 ***
なんか、そう、なんとなくフィレオフィッシュ好きなんだけど…
昔からマクドナルドのメニューと言えばフィレオフィッシュが好きだったのだけれど、あまり人から共感されることがなく、なぜフィレオフィッシュが好きなのか自分でもよく分かっていなかった。 なので、三宅香帆さんの『「好き」を言語化する技術』の帯に書かれていた「すごく感動したのに『おもしろかった』しか言葉が出てこない!」という悩みは、そのまま自分の悩みでもある。 すごくフィレオフィッシュのことが好きなのに「なんか、そう、なんとなく」しか言葉が出てこない! この憂慮すべき事態に立ち向かうべく、一刻も早くこの書籍を読まなくてはならない。今日こそが自分の人生のターニングポイントだ。 そんな使命感に駆られた自分は、妻子に「今日の帰りは遅くなる」と連絡を入れ、地元のイオンの微妙な階に設置されたリモートワーク用の個室ボックスに尻を落ち着けた。 決して居心地は良くないが、うっすらとした居心地の悪さは、自分の出力を本へと集中させる。海岸や草原のハンモックとかで読んでいたら、集中力は無限に世界へと拡散していき、眠くなっちゃうからね。寒いし。
「好き」を細分化すると、自分の感想がクリアになる
読み始めると、フレンドリーなインストラクターに語りかけられているような柔らかい語り口にまず「好き…」となり、驚くほどつるつると読める割に重大なことが書かれているという気にさせるのが「すげぇ」と感じる。 特に第二章に書いてあった「言語化とは、細分化のことである」という一説にはハッと天啓を受け、「そうかも!!! !」という自分の絶叫が個室ボックスに反響した。音は漏れていなかったと祈りたい。 言語化とは細分化、そうだったのか。例えばこれを自分の好きなフィレオフィッシュに当てはめ、構成するパーツを細かく見ていくとどうなるだろう。 【フィレオフィッシュが好きな理由】 ・バンズ。触れた瞬間に、指先からホカホカさが伝わってくる。さらついて軽さが保たれており、脂による湿り気が無いのがクール。この軽さに惹かれている面はあるかもしれない。 ・タルタルソース。改めて味わってみるとピクルスの酸味がかなり強く、「酸っぱ!」と感じる瞬間もあるほど。白身魚フライがボディとして淡白なので、よりピクルスを強調しているとも言える。それが好き。実はピクルスが好きなのかもしれない。 ・チーズ。忘れがちになるが、フィレオフィッシュにはスライスチーズが一枚入っており、無くてもいいだろと思いきや、この乳脂肪分がしっかりと味の下支えになっていると感じる。チーズが無かったら絶対に淋しいし、味気ない。思わず見逃しそうになるものが、実は重要な役割を担っている。この寓話性の高さ。俺でなきゃ見逃しちゃうね。 【フィレオフィッシュに違和感を感じた点】 ・値段。一つ食べただけでは分からないかもと思い、フィレオフィッシュの単品を2つ頼んだのだが、840円もした。今、フィレオフィッシュってそんな値段だったの!? まだ1個290円ぐらいの気持ちでいたので、インフレに精神がついていけていない部分があることを感じた。一度、座って休みたい。 こちらの本には好きなことだけに注目するのではなく、違和感を持つことも重要と書かれていたので、必ずしもポジティブではない感想もひとつだけ上げてみた。 確かにこうして一つ一つの要素を分解していくと、自分が何を感じていたか書きやすく、「俺そんなこと思ってたんだ」という意外な発見もある。 さらに「GoogleやXで他人の感想を見る前に、自分の言葉で書いてみよう」ということも書かれていたので、この感想は何も検索せずに書いてみたが、フィレオフィッシュのチーズに寓話性があるなんて、なかなかいい着眼点やん。やるやん俺。マックで女子高生が言ってたことにしたらバズるんちゃう? 代わりに魂を売り渡すことになるけどなぁ! すいません、思ってないですそんなこと。