がん疑いの小さな病変も発見…過疎地域で始まった『遠隔医療』技術とアイデアで都市部とのレベル平準化図る
過疎化と高齢化がすすむ地方では、“受けたい医療が受けられない”現状となっている。三重県では、診察や医師の育成を「遠隔」で行う先進的な取り組みを始めていて、地方が抱える課題の解消を目指している。 【画像】100km以上離れた病院へ「内視鏡検査の遠隔サポート」をしている
■「過疎地域」は全国で51.5%に…“医療が受けづらい”現実
三重県鳥羽市に住む89歳の細木忠夫(ほそき・ただお)さんは、耳の遠くなった妻と2人暮らしだ。自身は日常生活に困るほど視力が悪化しているうえ、肺の機能が低下しているため、酸素チューブが手放せない。 細木忠夫さん: ここの文字がな、文字が見えないもんで適当に押さえとるんだけどな。 Q:給湯ボタンがどこあるか見えますか? 細木忠夫さん: いや、それが見えないの、その字が見えないの。“自分の寿命まで自宅でいた方が”というような、安らかな気持ちでおるけどさ。 細木さんが暮らす、鳥羽市石鏡町(いじかちょう)は、人口352人のうち半数以上が高齢者の地域だ。 総務省の2021年の調査によると、全国1719市町村のうち、「過疎地域」とされる地区は51.5%だ。過疎地域では、人口に占める高齢者の比率も年々拡大していて、全国平均を上回っている。 細木さんは、血液中の酸素濃度などを計るために定期的に通院する必要があるが、この地区に大きな病院はない。 自宅から300メートルほどの距離にある「診療所」の診察時間は、月・火・金曜日の午前中のみだ。通院するにも、病院までの道で転倒する恐れもあるため、不安が残る。 細木忠夫さん: 転んだら骨がな。骨痛めたら寝たきりになってしまう。それが一番怖いでな。 過疎と呼ばれる地域は、“医療が受けづらい”“病院に行きづらい”といった課題を抱えている。
■“小さな病院”が家まで…三重で始まった「リモート診察」の実証実験
“誰もが必要な医療を受けられる”仕組みを実現するための取り組みが、三重県鳥羽市で始まっている。 看護師: 車の中行こうかな、ちょっと雨やですべらんように気を付けて。 鳥羽市の浦村町(うらむらちょう)に住む、吉川恒也(よしかわ・つねや 83)さんの自宅前に横付けされたのは、通院の難しい患者に「診察室」を車で丸ごと届ける「移動式診療所」だ。 家の前に横付けされた車に、患者が乗り込む。 看護師: 今日ね、いつものように血圧とか熱とか測らせてもらうわな。 吉川恒也さん: こんな日はここまで来てくれてええわね。 看護師: なあ、雨やとな。 これは、2023年12月から石鏡町と浦村町で実証実験が始まった「医療MaaS(マース)」という取り組みで、玄関を出て数秒で到着する、まさに“小さな病院”だ。 看護師が体温や血圧などを計測するが、そこに医師の姿はない。医師は診療所から、“リモート”で診察する。 小泉圭吾(こいずみ・けいご)医師: こんにちは、お元気そうで。あれから痰の調子どう? 吉川恒也さん: 今日からおさまってきた。昨日まではあったんやけどな。 看護師: 胸の音だけ聞かせてもらってええかな? 看護師が当てた電子聴診器を通じて、心臓や肺の音を医師がヘッドホンで聞く。 小泉圭吾医師: OKですね。胸の音も大丈夫みたい。 吉川恒也さん: 先生の顔まで映ると思わへんかった。それだけで喋りやすいやんね。腰の軟骨が擦れてもうて。年々この車にお世話にならないかんやろな。 過疎地で暮らす高齢者の診療機会を確保することは、医師にとっても急務だったという。 小泉圭吾医師: 地域の中で今まで互助の主役になっていた30代から50代の壮年層がすごく減っているので、(高齢者を)移送するのが難しくなってきている。そういう担い手が少なくなっていることを考えると、診療所まで来られない患者さんもたくさんいる。お医者さんにいつでもアクセスできるような場所としてMaaSが成り立っていけば、自分の住み慣れたところで、ずっと住み続けられたりとかが可能になると思う。