働きすぎだけが原因ではない…「過労自死」のヤバすぎる実態と「発生メカニズム」
海外でも注目される「karoshi」
「過労死とは1970年代後半以降、労働環境の変化とともに脳血管疾患、心臓疾患による死亡の割合が高まったことで、医師らによって提唱されました。過労死が社会一般に広まったきっかけとして、1988年に弁護士・医師や労災専門家などが『過労死110番』という電話相談を始めたことが挙げられます。全国から相談が殺到し、マスコミが繰り返し報道したことで日本社会に定着しました」(小森田氏) バブル最盛期で豊かになったものの、働きすぎの弊害を象徴する現象として、海外でも「karoshi」(death from overwork)が注目されるようになった。2002年には「karoshi」がオックスフォード英語辞典に掲載された。 同様に「過労自死」が生まれた背景についても、小森田氏が続ける。 「一方、過労自死は過労死が社会問題として定着した後、弁護士の川人博によって提唱された概念です。1991年に起きた広告大手・電通社員の過労自死事件(電通事件、2000年3月24日最高裁判決)がきっかけとなり、過労自死というものが初めてクローズアップされたといわれています。過労死が社会的に認知されてから過労自死という概念を作ることで社会問題として認識を高めようという狙いもあったように思います」(小森田氏) 2015年にも電通では女性の新入社員(当時24歳)が、過労自死した事件が起きている。 この事件では、過労死リスクが高まるとされている残業の「過労死ライン」月80時間を優に超える130時間もの残業をした月もあり、ワイドショーなどでも大きく取り上げられ、過労自死が再び注目されることとなった。
統計データは「氷山の一角」
2023年の警察庁の自殺統計によると、全体の自殺者数は21,837人。「勤務問題」が自殺の原因・動機だったとされる例が2875人だった。 そのうち、最も多いのは「職場の人間関係」の775人(約27%)。 その次に多いのが「仕事疲れ」の709人(約25%)と、職場の人間関係と仕事の過労が大きく影響した結果となっている(ただし、自殺の原因・動機については、家族等の証言から考えうる場合も含め、自殺者一人につき4つまで計上可能としている。そのため、「勤務問題」以外の項目「家庭問題」、「経済・生活問題」などが同時にカウントされた場合、「過労自死」と断定できないケースもある)。 さらに厚生労働省「過労死等の労災補償状況」によると、2022年度の「脳・心臓疾患に係る労災請求件数」は、前年度より50 件増加の803件。労災支給決定(認定)件数は194件(うち死亡54件)。 一方、2022年度の「精神障害に係る労災請求件数」は、前年度より 337 件増加の2683 件。労災支給決定(認定)件数は、前年度より81件増加の710 件(うち未遂を含む自殺67件)。2012年度以降 500 件前後で推移していたところ、2020年度に600 件を超え、年々増加している。 過労死(脳・心臓疾患に係る労災)、過労自死(精神障害に係る労災)の統計データについて、小森田氏が解説する。 「過労死や過労自死に定義はあるものの、労災請求されたケースしか把握できないという問題があります。年々、社会的な認知が進み、請求件数自体増えてはいるものの、請求されずに過労死や過労自死と言えるようなケースは相当数隠れている可能性があり、統計に出ているのはあくまでも氷山の一角といえます」(小森田氏)