『あのクズ』玉森裕太のクズぶりに目が離せない 踏んだり蹴ったりな役を好演する奈緒
「あのクズを殴ってやりたいんです」 早速タイトル通りの言葉が主人公の“ほっこー”こと佐藤ほこ美(奈緒)の口から飛び出した『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系)第1話。 【写真】ほこ美(奈緒)と喜ぶ海里(玉森裕太) 結婚式当日、新郎の衛(宮崎秋人)に逃げられた上、彼が浮気をしていたことが発覚し、殴り掛かろうとするも上手く交わされその拳は届かず大転倒してしまうほこ美。その様子を連写していたのが、この結婚式場に出入りしているカメラマンの葛谷海里(玉森裕太)だった。 結婚が破断になったばかりでなく、結婚式費用も全額支払うことになり、住む場所もなくなったほこ美は実家に出戻り、職場の市役所では腫れ物に触るように扱われて踏んだり蹴ったりだ。そんな彼女の衛への仕返し心を焚きつけたのも海里の一言だった。「負けっぱなしだ」という海里の言葉を聞き流せなかったほこ美は、彼の力を借りて衛と直接対峙の機会を得て代金の回収に成功した。 そこからほこ美と海里の距離は一気に近づく。海里のバイト先のバーに通ううち、それぞれに意味のあるカクテル言葉とカクテルを覚えながらほこ美は何より海里自身にハマっていく。 2度目に会う時にはオリジナルの呼び名で呼びかけ距離を詰め、敢えて「奇跡」と「叶わぬ恋」という2つのカクテル言葉を持つブルームーンを最初に差し出す。このあたりは海里にとっては無意識レベルでやっていそうなお決まりパターンに思えるし、「こんな子初めて」という言葉も到底初めて口にしたものとは思えなかった。 「いつもついて来てくれて側にいてくれる気がする」とほこ美が話していた月に自分がなると言い出した海里の言葉に、その後のキスに、これはもう2人は付き合ったということなのかと思いきや、ここから海里の本性が炙り出されていく。 街中で飲み会帰りの酔っ払ったバーの女性客に声を掛けられただけでなく、海里の首元に手を絡ませ慣れた手つきでキスをする。そして彼女は「海里は誰のものにもならない」と言い残す。まさしく海里こそがクズだったのだ。 海里役を演じる玉森が本作同様にTBS火曜22時枠に出演したのが『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(以下、『ボス恋』/TBS系)だが、その際にもカメラマンの宝来潤之介役を好演していた。潤之介も掴みどころがなかったものの、擦れたところがなく超天然のマイペースぶりで悪気なく周囲を振り回す役どころだった。 本作の海里は面白いことに飢えており、常に予定調和で刺激のない日々に辟易しているような一幕が見受けられる。だからこそ、結婚式当日に逃げる新郎を思いっきり追いかけ顔面からずっこけるほこ美に興味を持ったのだろうし、ほこ美とすれ違いざまにその時の写真を落とし偶然を装って話すきっかけを作ったのだろう。 ゲームセンターのUFOキャッチャーでは大学院まで学んだ物理学の観点を生かし、バーにもおそらく初めて通うだろうほこ美に興味を持ってはいたものの、他の女性同様に簡単に自分を受け入れ、簡単に自分との奇跡や運命を信じる様にどこかでガッカリしていたのかもしれない。 海里の脱力系の佇まいとなんだか固く閉ざされていそうな心のロックがなぜ掛けられたのか気になるところだ。彼のクズぶりこそがほこ美をボクシングジムに向かわせたきっかけだが、きっと彼自身も何らかボクシングと関わりがあるのだろう。思わずボクシングのファイティングポーズをとるような一幕も観られ、盛大にほこ美を切り捨てた後自宅のシャワーを浴びながら自己嫌悪に陥っていそうなシーンも観られた。彼から“夢中になれるもの”を奪った過去の出来事はどんなことで、そこにどうボクシングが関わっているのかも注目したい。
佳香(かこ)