福島原発でデブリ試験的取り出しに着手。更田豊志・原賠機構上席技監「東電の”実戦経験”蓄積に意義」
冠水工法ではいったん燃料デブリの取り出し作業が始まれば順調に取り出せる可能性が高いが、そこまでにたどり着くことが難しい。そもそも大量の水を蓄えられる構造物を造らなければならない。他方、燃料デブリが気中に露出した状態もしくは低水位で浸漬(しんせき)した状態で取り出す「気中工法」についても別の難しさがある。 ――前途は多難ですね。 今、心配しているのは、その手前である環境整備の段階で途方もなく時間がかかるのではないかということ。片付けといっても、実はそれ自体が燃料デブリ取り出しと同じくらい難しい。
――どういうことでしょうか。 3号機の原子炉建屋本体のそばにラドウエスト建屋という建物がある。これを解体して更地にし、そこにデブリ取り出しのための構造物を新たに建てたい。ところが、このラドウエスト建屋には原発事故直後に放射性物質で汚染された樹脂などの廃棄物が投げ込まれ、今もそのままになっている。 厄介なのはヘドロのような状態の廃棄物で、これを取り出して片付ける必要がある。しかし保管方法、保管場所とも決まっていない。
燃料デブリ取り出しの全体スケジュールを考えた場合、こうした前段階の片付け作業が4割、取り出し用の構造物の建設が4割、そして最後の1~2割が燃料デブリの取り出しといったイメージになるのかもしれない。もちろん、片付けと並行して燃料デブリのありかを探るための小規模な取り出しは可能ではある。 ■時間を置いて着手する方法の合理性は? ――燃料デブリは人が近づくことができないほどの高い放射線量を持っています。時間をかけ、放射線の減衰(次第に放射線量が減っていくこと)を待ってから取り出しに着手するという方法も考えられるのでは。日本原子力学会は「遅延解体」という選択肢も提示しています。
技術的には放射線の減衰を待つという考え方がある。一方で、その間に建屋も老朽化していく。一般にコンクリート構造物の耐久年数は100年程度とも言われている。福島第一原発の建屋は水素爆発も経験している。現在はそのままにしていても差し迫った危険性があるわけではないが、今後長きにわたってそのままにしておいていいのか。廃炉に従事する人たちもどんどん入れ替わっていく。 福島原発事故からわずか13年が経過しただけの現在ですら、世の中の気分は事故当時から大きく変わっている。仮にも燃料デブリ取り出し作業の着手を後ろ倒しにし、50年後から始めようとした時、廃炉にたずさわる世代はまったく入れ替わっている。その時、さあいよいよ着手しようということになるのか、疑問なしとはしない。さらに50年待とうという判断になるかもしれない。