映画「ホールドオーバーズ」 クリスマスに取り残された教師と生徒の意外な交流
20年前、「サイドウェイ」(2004年)という映画があった。 小説家志望のバツイチ教師と1週間後に結婚式を控えた学生時代のルームメイトが、カリフォルニアはサンタバーバラ周辺のワイナリーをめぐるという一種のロードムービーだ。(ちなみに2009年に日本で「サイドウェイズ」というタイトルでリメイクもされている。) ワインには一家言ある主人公と独身最後の日々を女性とのアバンチュールで楽しもうとする親友が織りなすコメディタッチの作品は、描写や展開が実に巧みで、次から次へと登場する垂涎のワインや料理などとも相俟って、筆者としては好きな作品の1つだった。 「サイドウェイ」は第77回のアカデミー賞では脚色賞に輝き、他にも作品賞や監督賞にもノミネートされた佳品だったが、その監督であるアレクサンダー・ペインと主演俳優であったポール・ジアマッティが、20年ぶりに再びタッグを組んだのが「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」という作品だ。 なんとも直球な邦題のサブタイトルもつけられているが、「ホールドオーバーズ(holdoveres)」とは、「残留者」とか「留任者」といった意味の複数形。寄宿制の名門高校を舞台にした本作ではまさに、クリスマス休暇にもかかわらず校内に”取り残された”教師と生徒と食堂主任のぎこちない交流がユーモアとペーソスたっぷりに描かれていく。 それぞれの事情から「孤独」を抱えながら接点もなかった3人だが、世の人々がクリスマスを楽しむなかで、次第に心を通わせていくというハートウォームなストーリーは、最後の場面まで上質なカタルシスを呼び起こしてくれる。 ■寄宿制学校に取り残された3人 1970年の12月。クリスマス休暇を前にしたマサチューセッツ州の寄宿制バートン校では、生徒も教師も職員もしばし学校から解放される日々を待ち望んでいた。そのなかにあって、帰省が叶わない生徒や当直の教師などは、これから始まる「置いてけぼり」の日々をどう過ごそうかと頭をめぐらせていた。 家庭の事情などから今年の「残留生徒」は4人だったが、うち3人は休暇が始まるやいなや、ヘリコプターで迎えに来た1人の父親の誘いに便乗するかたちで、学校を後にしていた。