【#佐藤優のシン世界地図探索57】「岸田訪米」をどう見るべきか?
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * ――4月8日から14日まで岸田首相が訪米しました。このことをどうご覧になられますか? 佐藤 議会演説と日米首脳共同声明では内容が違いますよね。 ――それはなぜですか? 佐藤 議会演説では、価値観と民主主義に関することを主軸に話しました。日本と米国、両方の国内世論を読みつつ演説するので、日米両国の内政を見ています。 それから、議会演説というのは一方的な行為なので、外交においてはあまり重要でありません。外交の世界は双方合意が基本ですから。なので、議会演説は、何を言ったって構わないんです。合意しているわけではないのですから。 ――なるほど。 佐藤 だから、「アメリカと共にある」と発言していようとも、「地球の裏側までいくのか?」といったら絶対に行かないですよね? ――行きません。 佐藤 そういう意味では、あの議会演説は大ボラ演説です。ただ、議会演説はホラを吹いても構わないんですよ。 ――演説が終わって、とにかくみんなが立ち上がって拍手。スタンディングオベーションになればいい。そして、双方の国内で「上手くいきました」と丸く収まる。 佐藤 そうです。その意味では目的に沿って、合理的にちゃんとやったということです。 ――首相官邸HPにその演説は全文掲載されています(米国連邦議会上下両院合同会議における岸田内閣総理大臣演説)。読んでみると佐藤さんがおっしゃった通りです。一方で、佐藤さんは共同声明の方はきちんと評価されている。 佐藤 共同声明ではまったく民主主義や価値観に触れていません。 ――外務省HPにその仮訳も掲載されていますが、確かにそれには言及していません。 佐藤 それから、秋葉剛男国家安全保障局長が言うように、日本の意図は「抑止力を付与して、権威主義国家と交渉をしていく」ことですから、今回の共同声明は非常に良いものです。 ――秋葉局長がワシントンポスト(4月7日)に寄稿した内容ですね。 佐藤 そうです。イデオロギーで中国や北朝鮮、ロシアを包囲するのではなく、日本は日本として軍事力を強化する。そして、それを背景に戦争が起きないように持っていくということですから、非常に戦略的に良い外交です。 ――同時に、日本国憲法を越えた一文は、ひと言もないのですよね。 佐藤 全くありません。 ――すると、秋葉さんはすごい人なんですか?