日本は「10兆円」の税収増!? 政府は国民にお金を返還するべきだが…歴史的な円安のなか、財務省が“隠そうと躍起になっている”不都合な真実【経済の専門家が解説】
足元の歴史的な円安相場について、高名な経済学者やエコノミストからの批判が巻き起こっています。しかし、経済の専門家で株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏は、こうした「円安悪玉論」を一蹴します。その理由と、財務省が“隠そうと躍起になっている”不都合な真実を詳しくみてきましょう。 【画像】「30年間、毎月1ドルずつ」積み立て投資をすると…
円安進行が止まらない
円安進行が止まらない。消費者や中小企業主体の日本商工会議所などの経済団体、少なくないエコノミスト、経済学者などからの悲鳴と批判が巻き起こっている。 この「円安悪玉論」を是と見るか非と見るべきか。この問題をおろそかにできないのは、それが政策選択と日本の国益に強く結びついているからである。 円安による消費の圧迫は「一時的」 為替論議は極めて単純、円安は(1)輸出する人(=円を受け取る人・金を稼ぐ人)にプラスに、(2)輸入する人(=円を支払う人、金を使う人)にはマイナスに、と相対する作用があることがすべてである。しかしその対立が事態を紛糾させる。 円安批判は後者の立場に立って展開される。円安が困るのは輸入物価が上昇し国民の実質所得を奪うからである。 2022年以降、ウクライナ戦争に伴うエネルギー価格の上昇、コロナパンデミックによって引き起こされた供給網の寸断により世界的なインフレが起きたが、日本では同時に進行した円安が物価上昇をさらに押し上げた。 2%のインフレターゲットを目標としてきた政府・日銀にとって、一時的ではあるが目標を達成できたのだが、賃金上昇が伴っていなかったために、労働者の実質賃金は大きく目減りし、消費を圧迫した。また海外生産や輸入品に依存している企業は輸入コストが上昇し収益が圧迫された。 しかしこれらは短期・一過性のマイナスである。物価高は円安が止まり前年比の変化がゼロになれば消えていく。
メディアが「円安悪玉論」を騒ぎ立てるワケ
他方、前者の側に立つ円安メリットは、緩やかにしか現れずまた一様ではない。すべての企業がドル建て輸出をしているだけなら、円安メリットは為替益により円換算の売上額が増え、ただちに利益増加に結びつく。 ただし、輸出企業が円安になった分だけドル建て輸出価格を引き下げる場合には、円安メリットは「値下げによるシェアの増加(=売上数量の増加)」が実現するまで現れない。 他方、円建てで輸出している企業の場合、円安のメリットは、円建て輸出価格の値上げがなされないと実現しない。また、工場の海外移転をしてしまった企業は、円安になると海外工場からの輸入価格が上がり、むしろコスト高になる。 海外法人で稼いだ外貨建ての利益が円に換算されるときに増価するというメリットはあるが、それは時間をかけて徐々に実現していく。さらに円安の恩恵をもっとも受けやすいグローバルな大企業は、円安メリットを声高には語らない。 このように、円安のデメリットは明快なのに対して、メリットは極めてあいまいでかつ見えにくい。よってメディアや経済論壇では、「円安悪玉論」が優勢となりがちなのである。 しかしもっとも本質的なことは、水と同様に需要も高いところから離れ安いところに集中するという真実である。 円安になり、日本の人件費も、土地も、農産物や工場製品も著しく安くなったことで、在日本企業の価格競争力が著しく高まっている。かつてコストが安い海外に工場を移転した企業は日本に工場を回帰させ始めている。 企業家であれ観光客のような個人であれ、製品も人も土地も世界中の需要家が安い日本に群がり、日本の内需を高める。その動きが設備投資、生産、雇用の増加、賃金上昇となって経済好循環を作っていく。