二作同時上演の挑戦から見える、作品の新たな魅力―― 稲葉賀恵×一川華インタビュー
チームで丁寧に作り上げている二作品
――今回のキャストである湯川さんと大石さんの印象、稽古の手応えを教えてください。 稲葉 無謀なことをやっているけどお二人ともニコニコしていて、ヤバい人たちだなと思っています(笑)。「大変だ」と言いながらキラキラしていて、このお二人で本当に良かったなというのがまずんひとつ。大石さんと湯川さんは年齢差があるけれど対等にお互いを尊重しながら作り上げてくださっているので、演出としてもすごく助けられています。お二人の変幻自在な姿を早く見ていただきたいなという気持ちです。 一川 濃密で過酷なセリフ量の2作品を同時進行してつくっています。稽古場を見ているとグッとくる瞬間が多い。チーム一丸となって、満身創痍でやっている中でも、セリフ一つひとつについて話し合うことは怠らずにやっています。翻訳していて感じますが、作風が全然違うんですよね。『リタの教育』は比較的セリフの意図がわかりやすい。でも『オレアナ』は余白があり、翻訳者からすると誤訳するリスクが高い作品です。皆さんと話し合って、間違えることを恐れずに作っているところです。 ――「翻訳」に関する営みを遊ぶ場所、ということですが、今回はどんなチャレンジをしていますか? 稲葉 作品をきちんとドラマとして立ち上げることを主体にしつつ、2作を同じ劇場で上演する意味を空間にどう表すか。それがチャレンジかなと思います。あとは、翻訳を知らない人や触れてこなかった人、演劇以外の界隈の人にも、「翻訳って面白い」と思ってもらえる機会を作りたいと思って仕掛けを考えています。 一川 2作品とも教育の場をテーマにしています。普通に生きているだけでも人間は何かを背負っていると思いますが、『オレアナ』のキャロルは女性として、『リタの教育』のリタは労働者階級の出身として、立場を背負ってものを語る。学生と教授、男と女、階級差などを背負いながら、二人きりの場でどんな言葉で語るのか想像して翻訳するのは、英語をどんな日本語にするのかというのとは違うところで難しさを感じました。どんな言葉をチョイスするかで作品の印象がガラリと変わるので、慎重に進めています。