台湾映画スター、シュー・グァンハンの実像に迫る:日台合作『青春18×2 君へと続く道』に清原果耶とW主演
俳優のプロフェッショナルとして
インタビューのみならず、今回取材した記者会見や舞台挨拶の受け答えから感じられたのは、俳優シュー・グァンハンの“仕事”に対するストイックな姿勢だ。 過去には台湾メディアの取材で、「俳優という仕事には全力を尽くせる」「代表作に恵まれなくとも役者を続けていたはず」と語り、本作の記者会見でも「撮影と同じくらいプロモーションも一生懸命やりたい」と宣言。事実、台湾では30回以上におよぶ舞台挨拶に立った。 ラブストーリーからコメディ、サスペンス、社会派ドラマなど、出演作品のスケールやジャンルも幅広いが、作品選びの基準も「特に決めていない」という。「シンプルに脚本が面白いかどうか。あるいは今までに演じたことのない、自分が挑戦できる役柄かどうかです」 この映画への出演を決めたのも、脚本のテーマのみならず、「以前から国際プロジェクトに参加してみたかったから。また、日本語での演技をやり遂げられるかに興味が湧いたから」だった。 「日本語は撮影が始まる前に数週間かけて練習しました。監督から『訛(なま)りはあってもいいけれど、なるべく日本人と同じ発音でしゃべってほしい』と言われていましたし、僕自身もなるべくきれいな日本語をしゃべりたかったんです。僕の日本語が下手なせいで、共演者の方々の演技に悪影響を与えてはいけないので」 その真摯な性格を物語るエピソードがひとつある。アジアでの「新・国民的彼氏」という異名について、台湾メディアにて「そう呼ぶのはやめてほしい」と冗談まじりに話したことがあったのだ。「僕はそんなにいいものじゃない。人間にはいろんな面があり、僕にも欠点はたくさんあります。別の一面やダークサイドを見てほしい」と。 そこで今回、「ご自身のダークサイドについてもう少し教えてください」と問いかけてみたところ、こんな答えが返ってきた。 「人間いつも順風満帆とはいきませんよね。挫折したとき、うまくいかないときはどうしても明るく振る舞えない。そんな時にこそ『なぜこうなったのか、自分の悪いところはどこなのか、自分が何を考えているのか』を徹底的に掘り下げるところに、僕のダークサイド、つまり闇の部分はある気がします。けれど、そういう暗闇を味わい、そこから抜け出すことを経験しなければ、本当の明るさを知ることはできないと思うんです」 こうした内省的な一面は、きっと36歳のジミーの演技にも活かされたはず。作品ごとに別人のような表情を見せる、シューの確かな演技力を支える部分に違いない。 2024年、シューは本作のほか、殺人鬼役を演じた韓国ドラマ『No Way Out(英題)』や、『僕と幽霊が家族になった件』のスピンオフドラマ『正港支店(原題)』が待機中。日台合作映画、韓国作品、Netflixシリーズとボーダレスに活躍することで、いまや台湾映画・ドラマ全体の顔ともなりつつある。 きっと日本でも、『青春18×2 君へと続く道』をきっかけに台湾文化に触れ、台湾映画に興味を持つ観客が少なからず出てくるだろう。 では、本作の次に観てほしい台湾映画は? 最後にそう尋ねると、シューは「何がいいでしょうね……」としばらく考えてから、「素晴らしい映画はたくさんありますが、僕がひとつ選ぶなら『ひとつの太陽』(19)です」と答えてくれた。ある家族の崩壊と再生を描き、“台湾のアカデミー賞”こと金馬奨で5部門に輝いた名作で、シューは心優しい長男役を演じている。「チョン・モンホン監督の映画はすごくいい作品ばかり。日本の皆さんにもぜひ観てほしいですね」 取材・文:稲垣貴俊