青森山田を撃破へ導いた“トルメンタ”なぜ不発? 「上手さ」光った名門校の巧みな対策
高川学園のトルメンタ戦術を封じた静岡学園の根本的な対策
第103回全国高校サッカー選手権は1月2日に各会場で3回戦の試合が行われた。「トルメンタ」と呼ばれるセットプレーでの戦術が注目された高川学園(山口)は、静岡学園(静岡)を相手に0-2の敗戦を喫して姿を消した。そこには、セットプレーの回数を増やせなかったことや、静岡学園が普段と違うゾーンディフェンスで対応したことなど、それを巡る戦いもあった。 【動画】「500万人が見た」 高川学園の珍トリックFK、不発に終わった“失敗トルメンタ” 高川学園は3大会前の第100回大会で、セットプレーの際に中の選手が手をつないで円状にステップして相手のマークをかく乱するトルメンタという戦術で話題を集めた。そして、今大会では初戦となった12月31日の2回戦、青森山田(青森)戦でそのトルメンタからコーナーキックのチャンスを生かし先制点を決めていた。 この静岡学園戦では前半13分に左コーナーキックを得て、そのトルメンタを発動した。しかし、その輪が解けて動き出した選手が静岡学園の選手に接触したことでファウルと判定され、チャンスを逸してしまった。 この時、その輪の近くに静岡学園の選手が立っていたことがファウルを誘発したようにも見えた。しかし、川口修監督によると「ゾーン(ディフェンス)で守ろうということで、何をやってきても自分のゾーンを徹底的に守るという発想だった。(接触は)ゾーンであそこに立てといったら、そこに相手が入ってきた」と、接触は偶然だったとのこと。しかし、ゾーンディフェンスで対応したこと自体は対策だったという。 DF岩田琉唯は「コーナーキックはいつもマンツーマンだけど、(監督から)今日だけはゾーンでやると。1人1人がスペースを埋めて守るのはいつもと違ったけど、きちんとできて良かった」と話し、前日練習での整理が生きたことに手応えを話した。 高川学園は青森山田戦でコーナーキック1回のうち1回を成功させた。しかし、この試合では前半の1回でファウルとなりチャンスを生かせなかった。だが、むしろ重要なのは試行回数を増やせなかったこと。つまり、試合の中でコーナーキックのチャンスがこの1回のみに終わってしまったことだろう。3回、4回とチャンスがあればゴールの可能性が高まるだけに、相手がコーナーキックに逃げるような脅威を与える攻撃をする場面が少なかったことが悔やまれる。 初戦で2得点したFW大森風牙によると「トルメンタ」には別のパターンも用意していたということだっただけに、それを披露する機会なくタイムアップの笛を迎えてしまったことの悔しさも募った。 大森は「自分たちの武器のセットプレーを出せなかったのは悔しい。今日の試合は守備に掛かりすぎて攻撃の厚みがなかった」と話す。青森山田戦では2年生ながら屈強なセンターバックを相手に体を預けてキープする姿も際立ち、Jリーグクラブのスカウトも「体の使い方がすごく上手だ」と評した。しかし、この日はDF岩田琉唯ら静岡学園の最終ラインとの駆け引きにも差を感じたといい、「タイミングをズラしてプレスに来るとか、いつもならぶつかる場面でぶつからずに来るのが上手いと思った」と話し、起点になり切れない面もあった。 静岡学園の選手たちは総じて技術的に優れていることもあり、簡単にはボールを失わない。結果的に、ゾーンディフェンスだけでなく相手に主導権を渡さないことでセットプレーの守備回数を減らすことが根本的な対策になったという面もあるのだろう。 それでも、近年の流行になっているロングスローや工夫を凝らしたセットプレーもまたサッカーの一部であり、静岡学園も普段の自分たちと違うやり方で対策を講じて守った。一発勝負のトーナメントという側面もまたセットプレーの重要度を高める要素になり、それを巡る準備から試合は始まっているとも言える。この試合においては、セットプレーの回数が多くなるかどうか、その場面を迎えた時の攻防をどう制するかの両面で上回ったのが静岡学園だったと言えそうだ。
轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada