新連載「AIだけで作った曲を音楽配信する」。生成AIが作り上げた架空バンド「The Midnight Odyssey」を世界デビューさせる、その裏側
自らに制約を課した音創り
4トラックのステム音源をステレオミックスする段において、AIが生んだ架空バンドの楽曲というコンセプトを崩さないために「ソフト音源やリアル楽器などの音を加えない」という制約を課しました。 というのは、Logic Proに展開して聴いていくうちに、シンバル、ギター、シンセを新たに加えたいという衝動に駆られます。たとえば、ドラムスのトラックでは「決め」やフィルインの部分でシンバルらしき音が鳴ってはいるのですが、ノイズのような音で、迫力に欠けます。ドラム音源を使ってクラッシュシンバルを入れたい衝動を抑えるのに苦労しました。 そのようにして新たに手弾き等の演奏を加えてしまうと、歯止めが利かなくなりそうで「AIが生んだ~」というコンセプトからどんどん逸脱してしまいます。とはいえ、バランスやレベル調整を行なうだけでは、音楽としての押し出し感が足りず不満が募ります。 そこで、レベル調整以外にも、プラグインを使ったエフェクト処理、波形編集によるトラックの追加や切り出し、といった作業まではOKとします。人間のリアルな録音においても、収録した音源に対するエフェクト処理や波形編集は普通に実施するわけですから、許される範囲でしょう。
AIのボーカルは音程が完璧
次の図はアルバムの3曲目「Through the Storm」のミックス時のLogic Proの画面です。各トラックの黄色い線はオートメーションによるレベル調整です。ドラムスについては、細かく調整しました。 ギターについては、リフの部分だけを切り出して、別トラックに分け、アンプシミュレーターでディストーションの処理を加えています。他には、リバーブ、イコライザー、コンプレッサーなどの処理を行っています。 ボーカルについては、大まかなレベル補正とディエッサーの処理だけにとどめています。人間のボーカルであれば、Melodyneなどの補正プラグインを利用して、ピッチ、声の強弱、タイミングなどの調整を細かく行う必要がありますが、AIのボーカルは、ある意味完璧な歌唱を行っているので、ほぼそのままです。 この調子でかなりの時間を費やし、アルバム12曲のステレオミックスをバウンスしました。