「近親相姦」はなぜしてはいけないのか…人類最大の禁忌「インセスト・タブー」にまつわる「驚きの学説」
こうして社会は発展した
「限定交換」と「一般交換」という、この2つの形態が「基本構造」であり、レヴィ=ストロースはあらゆる婚姻の形態が、これらを組み合わせるか、あるいは変形させたものであると述べています。婚姻は、女性を他集団へ送り出し、自集団に他集団の女性を迎え入れることを促します。それは逆に、自集団内で性交渉(結婚)を禁じるインセスト・タブーとして現れるのです。 自集団内で結婚を繰り返していたならば、集団はやがて自らのうちに閉じてしまい、外に向かって社会環境が成立することはなくなってしまうでしょう。言い換えれば、生まれ育った集団の外に女性を与え、他の集団から女性をもらうという女性の交換によって、どの集団も次世代を生み出す女性の確保を確実なものとし、社会環境を成立させてきたことになるのです。 インセスト・タブーは、社会を閉じて消滅させてしまう不利な行為を禁止し、社会環境を人類社会にまで拡大発展させていくことを可能にする規則だとも言えます。つまり、インセスト・タブーの原理こそが、人類社会を成立させてきたのです。 また、こんなことも言えます。家族は、「交換する主体」として最初から存在するのではありません。集団内で性交渉(結婚)を禁止することによって、「交換する主体」としての家族が生み出されるのです。ある集団は、婚姻によって姻戚となった近隣の集団と友好な関係を結び、経済的資源の獲得をめぐって起きる争いを未然に回避し、平和的な秩序を維持しようと努めていると見ることもできるでしょう。 さらに連載記事〈なぜ人類は「近親相姦」を固く禁じているのか…ひとりの天才学者が考えついた「納得の理由」〉では、人類学の「ここだけ押さえておけばいい」という超重要ポイントを紹介しています。
奥野 克巳