症状が回復せず、状況は「極めて厳しい」…医師は患者や家族にどう“現実”を伝えるのか
本当に大丈夫ではないとき
大学病院や公立病院に勤めていると、「大丈夫ではない」事態はもっと頻繁に起こります。それは新生児医療と、小児がん医療です。私は両者に深く関わりましたので、大学病院に在籍した19年間に100人以上の子どもの死に立ち会いました。 進行した神経芽腫という小児がんは、助かる確率が40~50%くらいです。つまり、助からないことのほうが多いのです。この病気は、抗がん剤→手術→抗がん剤→骨髄移植(正確には造血幹細胞移植)まで順調に進んで、初めて治癒が見えてきます。 途中で病気が再発したりすると、ほぼ100%助かりません。それは抗がん剤が効いていない証拠であり、いったん再発するとがん細胞はどんどん広がっていきます。つまり、神経芽腫という小児がんは絶対に再発してはいけないのです。 神経芽腫の治療で最も「大丈夫ではない」ことは、病気が再発することです。画像検査や腫瘍マーカーの数値の上昇で再発が確定したとき、ご家族に再発を告げるのは本当に心苦しいものがあります。 もちろん、代わりにこういう抗がん剤を試してみようとか、放射線療法に踏みきってみようとか、治療のアイデアは出します。しかし、事態を逆転させる一手というものはないのです。また、再発したら極めて厳しいということも入院のときに伝えてありますので、ご家族は再発という言葉の重さを十分に分かっています。 だけど、我が子の死をすんなりと受け入れられる親などいるでしょうか。この世には何かいい治療法があって、それを使えば病気が消えると思っていないでしょうか。そう思うのは仕方ありません。親として当然でしょう。 「とても残念ですが、医療に奇跡はありません。奇跡は起こりません。これからあらゆる治療をやってみますが、病気が消えるということはありません。この現実を受け止めて、心を整理してください。でも……今、奇跡は起きないと言いましたけど、奇跡を信じてあげられるのは、ご家族だけなんです。最後まで希望を持って、奇跡を信じてください」 私はこういう話をして、厳しい現実を伝えることと、希望を捨てないように励ますことをやっていました。