「疎開保険」で避難所提供 加入きっかけに交流も 鳥取県智頭町
13年で延べ2600人超加入
鳥取県智頭町は、地震などで被災した際に避難場所を提供する町独自の事業「疎開保険」を切り口にして、関係人口を増やしている。近年の災害増加などを背景に、本年度は新型コロナ禍以降で最多の79世帯156人が加入。加入者は、同町での森林ツアーや民泊を半額で利用できる特典などがあり、地域外から訪れた人と農村の交流が生まれている。 疎開保険は、災害支援を切り口にした地域おこし策で、2011年4月から運用している。豪雨や地震などにより災害救助法の適用地域が対象で、被災した際には同町の民泊施設に1日3食付きで1週間滞在可能。加入日から1年契約で一口1万円から。複数人の加入で割引がある。 約6割がリピーターで、契約者の8割が50代以上。兵庫、東京、大阪で51人に上るなど都市住民が多い。同町担当者は、南海トラフ地震臨時情報などを背景に「災害への備えで加入している人が増えている」とみる。 制度開始から13年で延べ2609人が加入し、保険の利用者は現在までいない。ただ、保険を使わなかった場合は、同町の米と野菜などの詰め合わせを受け取れる他、農家民泊などを半額で宿泊できる特典がある。 同町担当者は「都会を抜け出し、農村に居場所を持つというニーズは高い」と話す。杉の町としても有名で同町は林業や農業が盛ん。保険をきっかけに滞在した民泊の利用者は238人に上る。 民泊17施設のうち、築100年を超す古民家で民宿を手がける農家の青木正篤さん(71)。自慢はいろりのすすで真っ黒になった木の梁(はり)。同町の支援で開業から3年弱で、関西圏の大学生や会社員など約50人を受け入れた。 水稲や季節ごとにジャガイモなど約2ヘクタールを管理し、宿泊者には農業体験を提供する。民宿がきっかけで稲刈りや草刈りなど地域の共同作業を手伝ってくれる人も出てきた。 青木さんは「高齢化する地域を守るため、地域外から若い人を暖かく迎え入れていきたい」と話す。 (大森基晶)
日本農業新聞