椎名林檎のコラボを総括するゴージャスな一夜 豪華ゲスト&驚きの選曲で魅せた6年ぶりの『(生)林檎博』
『放生会』ゲストボーカル勢も多数加わった圧巻のフィナーレ
「望遠鏡の外の景色」のインストに乗せて、このライブのメンバーが映像で次々に紹介された。 名越由貴夫(Gt)、鳥越啓介(Ba)、伊澤、石若、オーケストラの銀河帝国軍楽団、そしてコンダクター 斎藤ネコにダンサーのSISの2人。黒髪ショートに黒紋付に番傘をさして歌った「茫然も自失」から「ちりぬるを」になると、ゲストの中嶋イッキュウが椎名と同じような喪服と髪型で登場しグルーヴィなサウンドに乗せてデュエットで聴かせた。そのエンディングをハープが繋ぎ、2人が奈落に消えると、曲は「ドラ1独走」になり、スクリーンに新しい学校のリーダーズのSUZUKAが現れ、野球のユニフォームに着替えた椎名はギブソンを持ってマイクの前へ。衣装の印象もあり歌も若々しいエネルギーを感じさせた。 すると「変わりましてセンター、ボーカル Daoko」のアナウンスとともに、やはり野球のユニフォーム姿のDaokoがステージへ。なんと岩崎良美が歌ったアニメ『タッチ』のオープニングテーマを歌い出す。すると野球場のような風景のスクリーンに「GO GO Daoko」の文字が浮かび、2番を椎名が歌うと「GO GO RINGO」になった。Daokoがステージを降りると球場に雨が降り出し、椎名は「青春の瞬き」を歌い出す。栗山千明に提供し『逆輸入 ~港湾局~』に収録されたドラマチックな曲だ。椎名にとって青春は高校野球だったりするのだろうか。雷雨の映像の下で球場の土をすくうような仕草に、そんなことを思った。 〈雨が止んで風が吹いて〉と歌う「自由へ道連れ」では、再び登場した中嶋イッキュウが道連れだ。ふたりとも拡声器を手にしている。金銀の大きなジャケットに小さなスカートを合わせた中嶋に対し、椎名はキラキラのマントを羽織りピンクの巻き髪で宝塚歌劇の男役的なイメージを持ったが、それは〈子供にも大人にもなれる〉〈男にも女にもならない〉という歌詞とも繋がった。目まぐるしくステージは進み「余裕の凱旋」は再びDaokoとのデュエット。MVで着用していたような軍帽を被り、踊りながら歌う2人は見分けがつかなくなりそうだ。ゲストたちとドッペルゲンガーよろしく同じような装いで見るものを煙に巻くのがこのステージのポイント。と思っているとビーハイブヘアにラメのフレアパンツ姿のもも(チャラン・ポ・ランタン)がDaokoと入れ替わりパンチのある歌を聴かせる「ほぼ水の泡」に。SISと4人でダンスしながらの歌にハンドクラップが起こる。ラストチューン「私は猫の目」では中嶋イッキュウとDaokoも加わり、全員で歌と踊りをつなぎ花道を進んでフィナーレへ。スクリーンの黒招き猫に見守られながらステージを降りる6人に大きな拍手が送られた。 アンコールになると、両手にウイニングのボクシンググローブをつけ、Tシャツに短パンの椎名とSISがパンチを繰り出す「初KO勝ち」では、のっち(Perfume)のアップがスクリーンに。Perfumeとは違う熱っぽい歌が聴きどころだ。そして最後は着物を羽織って歌った「ちちんぷいぷい」。このおまじないは何に効くのだろう。めまぐるしいほどの衣装チェンジとゲストの登場に息つく暇もない思いがしたが、曲の多くは女性アーティストに提供したもので、女性アーティストとコラボした『放生会』と通じている。もしかしたら『放生会』を制作した時からこのライブのアイデアがあったのかもしれない。最新作を軸にしながら、様々な曲を取り上げる『(生)林檎博』だからこそ実現したセットリスト。珠玉のライブだったと言っていいだろう。 ステージに誰もいなくなり「2〇45」(ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄ × 椎名林檎)に乗せてスクリーンに映されたのは、ディストピア的な未来だろうか。このライブのロゴが遺跡になっていたり、野球場が廃墟になっていたり、最後は椎名らしきアンドロイドの頭がポロリと落ちる。この映像を見ながら「人間として」の最後の一節〈答は僕ら人間の業〉を思い浮かべた。我々人間は、どこに向かっているのだろう。
今井智子