【コラム】イギリスの国際教育と“6人の妻たちの残酷物語”【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
■6人の“気の毒な妻”の歌
翌日。ロンドン支局のカメラマン、サイモンさんに「GK」の問題を見せながら、「これ、難しすぎますよね。大人でも絶対できないですよね…?」と尋ねてみる。すると、サイモンさんは「Oh、結構、難しいね」なんて言いながらも、楽しそうにすらすら解いている。実は彼、「パブクイズ」の常連だったとか。 イギリスではパブで毎週、「クイズダービー」のようなイベントが行われ、結構な呼び物になっている。テレビを見ていても、昼の時間帯はクイズ番組に占拠されているし、元来、クイズ好きの国民性らしい。 学校から来るお便りの中に「今年もやります、大人気の保護者クイズナイト!」なんてチラシが入っていたりする。わざわざ学校に行って保護者でクイズ大会をやらなくても…と思うのだが、親睦を深めるのにクイズはうってつけらしい。皆で、あーでもないこーでもないとやっているうちに、なんとなく仲良くなっていくのだとか。
ちなみに、イギリス国王・ヘンリー8世に6人もの妻がいたことを初めて知った。なんかいっぱい、いたな…くらいで、1人1人の名前なんてわかるわけがない。ちなみに最初の妻は「キャサリン・オブ・アラゴン」と言うのだが、アルフィー君は「アン・ブーリン」と書いていた。こちらは2人目の妻。どちらかというと、この侍女から王妃に成り上がった末に斬首されてしまった2番目の妻の方が有名なので、アルフィー君、ちゃんと「かすりながら」間違えている…脱帽。 頭を抱える私に、サイモンさんが歌ってくれた――いや、慰めの歌ではない。「ヘンリー8世の妻の歌」である。いわく、「♪Divorced Beheaded Died (離婚し、首をはねられ、死んだ) Divorced Beheaded, Survived(離婚し、首をはねられ、生き残った) 私はヘンリー8世。6人の気の毒な妻がいた~♪」 …このあと、歌で1人1人の妻についての詳細な説明が続くのだが、それは割愛するとして、なんとも物騒な曲である。帰宅してさっそく息子に歌ってやると、「知ってる、知ってる! 歴史の授業でミセス・ヘップバーンに習った!」と手を叩いて喜びながら唱和してきた。「で? ヘンリー8世の最初の妻は?」「…知らん」おまえ、覚えているのはその歌だけかい!! 思わずツッコみたくもなったが、ここは我慢。なんとしても10問の解答を月曜までにたたき込まなければならない。 ひたすら何度も答えを書かせて、暗記させる。…いかん、これではただの丸暗記、まったく血肉にならないではないか。おそらく試験が終わった瞬間、きれいさっぱり忘れている…逡巡(しゅんじゅん)しながらも、問題を反すうしていると、あることに気がついた。10問中、およそ半数は“外国に関する問題”だ。少なくとも問2、6、7、8、10はイギリス国外の話だろう。若干小学5年生の子どもに「常識」としてアメリカの州の名前や南米の国の名前を書かせるというのは、なかなかである。そうか、こんな小さい時から教育の中で、国外に目を向けさせているのか…! 同じ島国でも多くの移民を受け入れ、多様性が担保されている国ならではの教育…と、いたく感じ入りながら、「待てよ」とも思う。この手の問題は、一時期、日本で批判された「詰め込み型暗記教育」そのものではないか? さっそく保護者会の後で、担任に質問をぶつけてみた。すると彼女はこう言った。「考える上で、ベースとなる知識は大切です。まず知らなければ、考えることも議論することもできませんから」 だが、こうした教育は私立学校のカリキュラムに限ったことでもある。イギリスでは一般に「ナショナル・カリキュラム」と言われる、日本の学習指導要領に相当する計画に沿って学習進度が定められているが、私立では公立に比べて「Year6」の段階で2年ほど学習が進んでいると言われている。速度だけでなく、学習範囲も幅広く、科目の選択肢も多いのが特徴だ。 なので、イギリスの教育を一口に平均値で語ることは難しい。イギリスの親が必死に「良い学校」を探し、必要とあらば近くに引っ越し、家庭教師を雇って目当ての学校に押し込もうとするのはこうした教育事情もある。