「いい奥さん」でいないと居場所がない。夫は、私とは対照的な美人で気が利く女友達と浮気をしている【書評】
たくさん傷ついたゆみのため、自分のために離婚を決意する香澄。探偵に調査を依頼し着々と不倫の証拠を集めていたある日のこと、雅也と共に突然家にやって来た絵美から妊娠報告を受ける。「妊娠してるとは知らなかった―…」という香澄の貼り付けたような表情の下には、きっと想像できないほどの激情が渦巻いているのだろう。崩壊の足音が聞こえてきそうな静けさに、ページを捲る手が止まらなくなっていく。
さんざん妻と娘を蔑ろにして不倫を楽しんだのだから、洋介が家族から「いらない」といわれ捨てられるのも当然のことだった。良い夫ではなくても、良い父親「だった」ことはあったかもしれないが、娘に「離婚しなよ」といわせる父親は、もう良い父親ではない。こうして、香澄が学生のころから憧れていた人との結婚生活は、怒りも涙も見せることなく終わろうとしていた。
しかし、不倫発覚後の離婚秒読みという絶望的な状況の中、洋介は良い父親に戻るために誠実に謝罪し、また認めてもらえるように努力する。真剣に反省している洋介の姿を見て、香澄は「もう1度やり直してもいいかもしれない」と再構築を考えはじめる。子どもの将来を1番に考えるなら、不倫した夫とやり直す未来を選ぶこともあり得ないことではないのだろう。 ゆみの涙は、子どもがいる家庭で起こる不倫の悲惨さを痛いほど教えてくれる。子どものためだと思った選択が、子どもを傷つけることもあるかもしれない。離婚と再構築で揺れる香澄が選ぶ決断を、ぜひ最後まで見届けてもらいたい。 文=ネゴト/ 押入れの人