ゲーム実況だけじゃないTwitch、世界700万人のストリーマーをどう盛り上げている? TwitchConで聞いた
“ゲーム実況”の配信プラットフォームとして知られるTwitch。しかし現在では、雑談からIRL(現実の日常生活)、DJや音楽演奏、お絵かき(イラスト制作)やコーディングまで、ありとあらゆることがライブ配信されている。幅広いカテゴリのストリーマー(配信者)を支えるプロダクトの担当幹部に、最近のトレンドや取り組み、最新機能などを聞いた。 【もっと写真を見る】
“ゲーム実況”の配信プラットフォームとして知られるTwitch(トゥイッチ)。ただし、世界でおよそ700万人いるストリーマー(配信者)はゲーマーだけではない。雑談からIRL(In Real Life、現実の日常生活のこと)、DJや音楽演奏、お絵かき(イラスト制作)やコーディング(プログラミング)まで、ありとあらゆることがTwitchでライブ配信されている。 「Twitchの中心にはストリーマーがいる」と語るTwitchのプロダクト担当幹部のジェレミー・フォレスター氏に、最近の“配信トレンド”から、幅広いカテゴリのストリーマーを盛り上げるための取り組み、そして「TwitchCon San Diego」で発表された最新機能などを聞いた。 幅広いカテゴリのストリーマーを盛り上げる取り組み ――Twitchと言えば“ゲーム実況”のイメージが強いですが、実際にはさまざまなカテゴリの配信が行われています。そうした幅広いストリーマーの活動を支援するために、プロダクト面ではどのように取り組んでいますか。 フォレスター氏:おっしゃるとおり、Twitch上のコンテンツはゲーム以外にも拡大している。たとえば現在、最も伸びているカテゴリは「雑談」だ。そこでプロダクト開発においても、ゲーマーかそれ以外かを問わず、“すべてのコンテンツクリエイター”が活用できるツールを提供しようと心がけている。 その一方で、人気が高まっているコンテンツのトレンドをキャッチして、トレンドをさらに盛り上げるようなマーケティング施策、プロダクト施策も進めている。 たとえば最近では、オンラインで授業やトレーニングを受けられる「教育・啓蒙」や、自分の仕事の様子を配信してコミュニティを作る「コワーキング」といったジャンルの配信も登場している。こうした新しい配信向けにカテゴリを作ったり、既存のカテゴリに統合したりすることで、ストリーマーがTwitch上での“居場所”を見つけ、視聴者を獲得しやすくするような取り組みだ。 特定のカテゴリ向けの取り組みとしては、今年の夏に「Twitch DJプログラム」をスタートした。これは、われわれがレコード会社との包括的なライセンス契約を結ぶことで、Twitch上で配信を行うDJが「合法的に」(著作権を侵害することなく)音楽をストリーミングできるようにする取り組みだ。DJ配信で得られた収益の一部は、楽曲を使用したミュージシャンやレコード会社に還元される。 ゲーム会社(ゲームパブリッシャー)とも、ゲーム実況を見ている視聴者にゲーム内のアイテムをプレゼントする「Twitch Drops」の取り組みを行っている。たとえば新作ゲームがリリースされたときに、Twitchでそのゲームの配信を2時間視聴したらアイテムがもらえるキャンペーンを実施すれば、視聴者にもゲーム会社にもメリットがある。そして、視聴者が多く集まるので、ストリーマーにもわれわれにもメリットがあるわけだ。 “ストリーマー開発者”はTwitchのエコシステムを豊かにしている ――開発者がコーディングする様子をライブ配信するトレンドもあると聞きました。開発者やエンジニアのストリーマーも多いのですか。 フォレスター氏:コーディングのライブ配信は人気コンテンツのひとつだ。ゲームほどポピュラーではないが、一定数のコアな視聴者がいる。 コーディングのストリーミングでは、開発者がコーディング作業を進めながら、その内容を視聴者に解説する。視聴者が質問をしてストリーマーがライブで答える、Twitchならではのコミュニケーションも活発だ。 開発者やエンジニアの存在は、Twitchのプロダクトエコシステムも豊かにしている。ストリーマーである開発者の中には、ストリーマー向け、視聴者向け、モデレーター向けなど、さまざまなTwitch向けサードパーティ製品を開発する人もいるからだ。たとえば「OBS」(人気の高いオープンソースのストリーミングソフト)のプラグインや拡張機能を開発し、ストリーマーに新しい機能を提供するといった活動が見られる。 TwitchConで発表された3つの新機能 ――今回のTwitchConで発表された、最新の機能強化について教えてください。 フォレスター氏:TwitchConではいくつもの新機能を発表したが、主要な発表3つを簡単に紹介しよう。 まずは「モバイルアプリの改善」だ。フィードに「ディスカバリー機能」を導入したことで、ユーザーが新しいコンテンツを見つけやすくなった。また、自分がフォローしているコンテンツの表示方法を改善し、以前見たストリームを簡単に探せるようにした。 2つめはクリップ機能の強化だ。クリップは、Twitchのストリーマーが配信のハイライトシーンをまとめた60秒の動画を作成できる機能で、作成したクリップはTikTokやYouTube、X(Twitter)などで簡単に共有できる。 今回は特に、モバイルアプリのクリップ体験を改善しており、モバイルでもクリップの作成や管理、検索が容易にできるようになった。ソーシャルメディアへの共有も改善されており、配信が終わった後、そのストリームからベストな部分を自動的に10個作成して、簡単に共有できる。 3つめは「Shared Chat」という新機能だ。複数人のストリーマーが一緒に配信を行うとき、これまではストリーマーごとにチャットが存在したので、視聴者は会話の流れを追うために、それぞれのチャットをチェックしなければならなかった。 新しいShared Chatでは、一緒に配信を行うストリーマーのチャットが共有(統合)されるので、会話がひとつに集約される。これにより、ストリーマーと視聴者、さらに視聴者どうしの交流が促される。 今後のプロダクト開発の方向性は“モバイル/コラボ/コンテンツ共有” ――あなたが率いるコミュニティプロダクトチームでは、ストリーマー向け機能と視聴者向け機能のどちらを優先させているのですか。 フォレスター氏:われわれは主にストリーマー向けの機能開発にフォーカスしている。Twitchコミュニティの中心にいるのがストリーマーであり、ストリーマー向け機能を強化することは、結果的に視聴者にもメリットをもたらすと考えている。 もちろん、機能開発はバランス良く行わなければならない。そこでわたしのチームは3つの領域に分かれており、四半期ごとにどこへ注力するかを調整している。 (1)視聴者がコンテンツを見つけるための機能(推奨システム、AI、検索など) (2)ストリーマーと視聴者の交流を促進する製品(主にチャット機能) (3)クリエイター向けの製品(分析ツール、成長支援ツールなど) ――今後のプロダクト計画について教えてください。 フォレスター氏:先ほど説明した3つの発表にも見られる方向性に変化はない。「(1)モバイルアプリ」「(2)コラボレーション」「(3)ショート(短編)コンテンツの共有」を中心に機能強化を続けていく。 まず(1)について。かつてはPCの視聴者が多かったTwitchだが、現在では新規ユーザーの70%がモバイルで視聴するようになっている。そのため、モバイル体験の向上は重要だ。ストリーマー縦画面(モバイル向け)・横画面(PC向け)の両方で同時に配信できる機能を提供し、視聴者が好きな方法で視聴できるようにする。 (2)では今回Shared Chatを導入したが、ストリーマーどうしのコラボレーションをさらに促進していきたい。コラボレーションを通じてできることを増やしていくことを考えている。 (3)のコンテンツ共有が増えることは、ストリーマーとTwitchの双方にメリットをもたらす。今回はクリップの共有機能を強化したが、今後も同じように、ストリーマーが自分の配信からベストな瞬間を切り取り、ソーシャルメディアで共有しやすくなるように機能を開発していく。 文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp