「宇宙はゴミだらけ」――NASAもお手上げの「宇宙ゴミ」回収に挑む、日本人起業家の奮闘
「現役で稼働中の人工衛星は約4300機、2030年までには約4万6000機が打ち上げられると言われています。デブリの増加や衛星コンステレーション(複数の人工衛星を協調動作させるシステム)の発展により、今後軌道がさらに混雑し、デブリと衝突するリスクが一段と高まることが予想されます」(アストロスケール岡田氏) 映画『ゼロ・グラビティ』は、スペースシャトルにスペースデブリが当たり制御不能になったことが物語の始まりだった。今年5月には実際に国際宇宙ステーション(ISS)に搭載されたロボットアームにスペースデブリの衝突痕が発見されている。 大きいものから小さいものまで、無数のデブリがぐるぐると地球の周りを飛び回っている様子を想像してほしい。映画の世界は空想上の物語ではないのだ。 「スペースデブリが衝突した衛星が故障し、気象観測、通信、測位ができなくなると、私たちの日々の生活にも大きな影響が出る恐れがあります」(小島教授) 天気予報やGPSはもちろん、災害監視、衛星放送、金融のほとんどが衛星に依拠しているといっても過言ではない。だが衛星には寿命がある。例えば衛星放送に使う衛星の寿命は15年程度とされ、新しい衛星を定期的に打ち上げる必要がある。 「将来、デブリが増え続け、人工衛星との衝突頻度が格段に高まれば、衛星を宇宙に打ち上げ利用すること自体が不可能になってしまいます」(小島教授) ある試算によればアメリカでGPSが使えなくなるだけで1000億円/日の損失が生まれるという。
世界中で誰も解決する技術を持っていなかった
NASAをはじめ、世界各国の宇宙機関はスペースデブリ対策に手をこまぬいてきた。抜本的な解決技術がなかったからだ。 世界初のスペースデブリ除去会社「アストロスケール」を岡田が立ち上げたのは2013年。 彼の運命を変えたのは同年のドイツでの一夜だった。当時、岡田はIT関連会社や介護事業を手がけていた。ドイツで宇宙会議が開催されると知った岡田は現地へ飛ぶ。 「高校1年の時にNASAのスペースキャンプに参加して、宇宙飛行士の毛利衛さんから『宇宙は君達の活躍するところ』という手書きのメッセージをもらったのが忘れられなかった」 いつの日か宇宙を舞台に活躍する自分の姿を思い描いていたという。 既に話題となっていたスペースデブリに関する議論ということで、期待に胸を膨らませていた。しかし、各国宇宙機関関係者と大手宇宙企業が参加したその会で愕然とする。 「世界中の名だたる専門家が集まっているわけだから、スペースデブリを解決する方法が語られるのだろうと思ったんです。しかし、コンセプトや分析ばかりで、具体的な解決策や、アクションへの提言が一つもありませんでした」 宇宙問題に取り組む専門家はもっと意欲的でかっこいいものだと思っていた。「2020年代半ばには問題は解決へと動き出す」という彼らの言葉も空虚なものに感じられた。 「世界中で誰も解決する技術を持っていないことが歯がゆかった。だったら自分がやるしかないと思ったんです」 すぐに会社名を考えた。「アストロスケール」。日本語に訳すと「宇宙」と「天秤」。宇宙開発と環境保全のバランスを取りたい。そんな思いを込めた。