“もしも”の世界を描きながら、真に迫る『シビル・ウォー アメリカ最後の日』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、内線が勃発した近未来のアメリカを舞台にしたアクションスリラー、テレビ番組で起きた放送事故をファウンド・フッテージスタイルで描くホラー、2人の花嫁の想定外の人生を描きだすヒューマンドラマの、バラエティに富んだ3本。 【写真を見る】舞台は、内戦によって分断された近未来のアメリカ(『シビル・ウォー アメリカ最後の日』) ■人はここまで残酷になれるのか?と怒りがこみ上げる…『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(公開中) 「映画は時代を映す鏡」とも言われるが、“もしも”の世界を描きながら、本作ほど真に迫った映画はないかもしれない。舞台は内戦によって2つに分裂した近未来のアメリカ。連邦政府から19もの州が離脱し、テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で衝突が繰り広げられていた。戦場カメラマンのリーら4人のジャーナリストは、同盟軍に追い詰められながら依然として抵抗を続ける強権的な大統領への単独インタビューを行うべく、変わり果てたアメリカを見つめながらホワイトハウスを目指していく。 まず目を引くのは、市民それぞれが武器を持ち、無法地帯と化したかつて平和だった街並み。敵対する相手を捕らえ、拷問し、つるし上げるなど、人はここまで残酷になれるのか?と怒りがこみ上げるのと同時に、こういった狂気は誰もが持ち合わせている性質なのだろうとも実感させられる。キルステン・ダンスト演じるリーに憧れて同行し、このような光景に打ちのめされながらもやがてジャーナリストとしてのある種の覚醒を見せていく駆け出しのカメラマン、ジェシーを『エイリアン:ロムルス』(公開中)でも話題のケイリー・スピーニーが熱演する。 分断、分裂への警鐘が鳴らされて久しい現代の世界情勢。あえて希望を上げるなら、共和党への支持が強いテキサス州と民主党が強いカリフォルニアが同盟関係にあることだろう。イデオロギーの対立があっても、それを乗り越えて協力することができるのだ。はたして、共通の敵を倒したあともその関係は続くのか?そんなことにも思いを巡らす体験となった。(ライター・平尾嘉浩) ■阿鼻叫喚のパニックと化すショック・シーンが炸裂!…『悪魔と夜ふかし』(公開中) 記録映画の形式を用いたフィクション=モキュメンタリーは、ホラー映画における人気のスタイルだ。オーストラリアのケアンズ兄弟が監督を務めた本作は、いわゆるファウンド・フッテージもののモキュメンタリー。1977年ハロウィンのアメリカで全米に生放送されたトークショー番組で、オンエア中に超常現象が発生。とてつもない惨劇に至った番組のマスターテープが発見され、その内容を丸ごと見せていくという趣向の恐怖劇だ。 そんな着想からして斬新なモキュメンタリーなのだが、観る者を当時のテレビ番組のレトロな世界へと誘うセットや音楽の作り込みも素晴らしい。そして最大の見どころは主人公の司会者ジャック(デヴィッド・ダストマルチャン)と、怪しげなゲストたちとのやりとりだ。霊能力者のパフォーマンス中に心霊現象が勃発し、悪魔に取り憑かれたとされる少女が登場する後半には、スタジオ内が阿鼻叫喚のパニックと化すショック・シーンが炸裂!「テレビ史上初の悪魔の生出演」と銘打たれた究極の“放送事故”の全貌を、ぜひご覧あれ。(映画ライター・高橋諭治) ■花嫁2人の奮闘が、観る者に元気と笑顔をもたらす…『花嫁はどこへ?』(公開中) 大ヒット作『きっと、うまくいく』(13)、『PK』(16)などに主演、インドのスタ―俳優アーミル・カーンが製作を務めたパワフルな人間ドラマ。ひょんなことで取り違えられた2人の花嫁の奮闘、その人生の岐路を描きだす。“取り違えなんてあり得る!?”と思いきや、大安吉日の電車内に溢れかえる新郎新婦とその家族、花嫁はみな赤いベールで顔を隠している光景を見れば、さもありなん。従順で大人しいプール(ニターンシー・ゴーエル)は見知らぬ駅のホームに一人取り残され、知的で気の強いジャヤ(プラティバー・ランター)は、いかにも古いしきたりが残る小さな村の大家族へ。 対照的な2人の花嫁がそれぞれ未知の世界に彷徨い込んだことで起こる騒動、自分の真意や可能性に気付き、その後の人生を自分の意思と足で歩いて行こうとするに至る物語は、実に痛快で感動的だ。新旧どちらの価値観も否定はせず、ただ女性ゆえに課される理不尽や生きづらさをストレートに表現。それが本作に強靭なパワーを与えている。特に権威主義者でワイロによって手心を加える悪徳警官が、ジャヤによって“社会にはびこる理不尽や不正義”に気づかされ、自身を顧みつつ変化していく姿に、“人は変わり得る”可能性を見て高揚させられる。警官まわりのドタバタ描写も楽しい。花嫁2人の奮闘が、観る者に元気と笑顔をもたらす快作。監督はカーンの元妻キラン・ラオ、というのもステキ。田園風景や自然、食べ物、陽気な人々、色んな生活風景まで、インドの魅力も存分に楽しめる。(映画ライター・折田千鶴子) 映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。 構成/サンクレイオ翼