「地域活性化」というが…規制緩和で多発する交通違反と事故『電動キックボード』普及に感じるきな臭さ
近年、自転車の無謀な走行が問題となり、ついに違反切符が切られる法律が施行される運びとなった。だが自転車以上に問題視され始めている乗り物がある。『電動キックボード』だ。 【懐かしい!】すごい!「ローラースルーGOGO」と開発者の吉岡伴明氏 歩行者を無視して歩道を疾走したり、平気で信号無視を繰り返し、中には右折レーンで信号待ちする者も。幹線道路を我が物顔で走行し、他車の走行の妨げになっているだけでなく、人身事故も発生している。 自転車に対して厳しい目が向けられ始めた時に、なぜトラブルが続出しているこの乗り物がこんなに急激に街に増えたのだろうか、疑問に思う人は多いだろう。 「そもそも『電動キックボード』とは『特定小型原動機付自転車』の商品名あるいは通称であって、原型は子供の遊具として親しまれていたキックスケーター(立ち乗りスクーター)です。それに電動モーターを取り付け自走できるようにしたものなのです」(全国紙記者) キックスケーターブームが巻き起こった’00年代初頭には、モーターを搭載した“電動キックボード”が数多く輸入された。 当時、日本の法律では、自走できる乗り物が公道を走る場合は、本来ナンバーを取得せねばならず、ドライバーは免許が必要だった。ところが、販売店の中にはこれらを『免許不要』『公道走行可能』と謳って販売するところもあり、合法的な乗り物と信じて、歩道や車道など公道を走る利用者が数多く見られた。 「電動機や内燃機関付きの電動キックボードは、道路交通法および道路運送車両法の双方で、原動機付自転車または自動車扱いとなっていました。つまり、原付運転免許が必要でした。キックボード本体の構造・仕様に関するものはもちろん、使用者は運転免許証の取得と携帯、オートバイ用のヘルメットの装着が義務付けられていたのです。 歩道、路側帯、自転車道、自転車レーンは走行禁止。事故や駐停車違反等の違反行為に対する放置違反金制度を含む行政処分の対象にもなっていた。自動車任意保険の加入も望ましいとされていました」(販売店代理店) 厳しい基準を設けたにもかかわらず、交通違反や事故は多発した。 ’21年7月までに福岡県で計18件の交通違反が確認されている。’22年には東京都で全国初の死亡事故が発生。死亡した男性はヘルメットを着用しておらず、飲酒運転の可能性もあったという。 当たり前と思える基準をクリアしても、事故は起き、違反も多発してしまうのだから、何か対策を取らねばならないと考えるのが普通だろう。 それなのに、逆に規制する法律が緩くなってしまったのには驚かざるを得ない。’23年に道路交通法が改正され、一部の電動キックボードについては「特定小型原動機付自転車」として16歳以上であれば免許なく、乗ることができるようになったのだ。 ◆子供が熱中した「ローラースルーGOGO」も製造中止に 電動キックボードの原型となるエンジン付きの『立ち乗りスクーター』は、1900年代初頭にアメリカで発売され、その後、日本でも独自に開発された。 今から40年前、日本でも自走できるキックスケーターの開発を、自動車メーカーの本田技研工業(ホンダ)が試みたのだ。その結果、最終的にエンジン付きは発売されることはなかったが、キックペダルを備えたキックスケーターが誕生した。 『ローラースルーGOGO』と名付けられたその“遊具”は最盛期には月産10万台、最終的に100万台が生産され、大ヒット商品となった。しかし、危険な乗り物ということで、発売からわずか2年で発売中止となってしまった。当時、本田技術研究所の技術者であり、同商品の開発に携わっていた吉岡伴明氏に話を聞いた。 「当時のホンダは、私が所属していた設計室では車以外にスノーモービルや3輪バギーなどの研究、開発をしていて、いろいろ新しいものを模索していました。アメリカで流行していたスケートボードがヒントになって、いろいろ手を加え『ローラー~』が生まれたのです」 子供用のレジャー用品として開発された『ローラー~』だったが、試作品ではエンジン付きも作られたという。ただ、法律の壁もあって断念せざるを得なくなり、最終的にキックレバーのついたタイプに落ち着き、製品化された。 「大ヒットとなって、体重制限が60kgまでの大人用も作られましたが、1976年2月に6歳の幼稚園児が、同年3月には3歳の幼児がトラックにひかれて死亡する事故が続けて発生したことで、新聞等で危険な乗り物と報じられ、売れ行きがゼロになりました。商品の安全性については証明されましたが、結果的に販売を止めることになりました」(吉岡氏) 当時、報道では『死のローラースルー』」などと取り沙汰されている。そのような前例があるにもかかわらず、事故が多発し、交通違反する利用者も後を絶たない状況で、なぜ電動キックボードは野放しにされているのだろうか……。実際、海外では規制が厳しくなった例もあるのに、日本では逆に規制緩和が進むという事実に、何かきな臭さを感じるのは私だけではないだろう。 ◆「ルールが社会に浸透しておらず、見過ごされやすい環境ができている」 交通問題に詳しい弁護士法人『響』の古藤由佳弁護士は、規制緩和が進んだ理由について、こう語る。 「環境に配慮した小回りの利く乗り物として、電車やバスなどの公共交通機関を補完する交通手段を生み出すことで観光客や地域住民の移動を円滑にし、地域活性化を目指す目的があるといわれています」 と、緩和の経緯を語ってくれた。ただ、問題点も指摘。 「特定小型原動機付自転車は、一定の条件を満たした場合には、歩道での走行が認められるなど、自転車とバイクの中間のような存在なので、歩道を走っていても、車道を走っていても、一応はルールを守っているように見えます。そのうえで、どのような車体が、どのようなルールで運転を許可されているのかが社会に浸透していないので、ルール違反が見過ごされやすい環境ができてしまっていると思います。 ’18年頃から、環境意識の高まりによって電動キックボードのレンタルサービスを導入していたパリでも、’23年4月には、交通事故の多発を理由として、同年8月末をもってレンタル終了となりました。 特定小型原動機付自転車も道路交通法上の車両なので、道路標識に従って運転をする必要がありますし、一時停止や交差点を右折する際の二段階右折など、守るべきルールはたくさんあります。道路交通法上のルールに違反した場合には、懲役刑や多額の罰金刑が科される可能性すらありますが、『免許なく乗れる』という手軽なイメージが先行してしまい、利用者側のルール順守の意識も希薄になりがちです」 などと、憂慮する。では、改善点や対策を問うと、 「まず、特定小型原動機付自転車として乗ることができる車体を、国や地方公共団体の側である程度限定してしまうことが考えられます。こうすることで車両整備もしやすくなりますし、利用者も周囲の歩行者も、特定小型原動機付自転車としてのふるまいを行い、周りもそれを期待して監視する、という環境が作りやすくなるのではないかと思います。 次に、ルールの周知徹底です。学生でも免許なく乗れるからこそ、例えば高校の授業に、特定小型原動機付自転車に関する講習を組み込み、安全な車体の見分け方や交通ルールを学ぶ機会を持つなど、基本的な交通ルールの周知徹底が求められると思います」 と見解を述べた。歩行者だけでなく、車道を走ることで迷惑に感じているドライバーも多い電動キックボード。大事故が起こる前に早急な対策が望まれる。 古藤由佳弁護士(弁護士法人・響) プロフィール「難しい法律の世界をやさしく、わかりやすく」をモットーに、交通事故や消費者トラブル・借金・離婚・相続・労働問題など、民事事件から刑事事件まで幅広く手掛ける。FM NACK5『島田秀平と古藤由佳のこんな法律知っ手相』にレギュラー出演するほか、ニュース・情報番組などテレビ・新聞・雑誌等メディア出演も多数。 取材・文:佐々木博之
FRIDAYデジタル