「中国が台湾寄りに変更」航空ルートが新たな火種になるのか?
「中間線」めぐる中国と台湾の認識の違い
「中間線」台湾側の認識は、実質的に「空の軍事境界線」「空の停戦ライン」だ。このM503というルートは、最も近いところで中間線から7.8キロメートルまで迫る。2月からは、中間線ギリギリを、中国の民間機が飛んでいる。 ところで、中国大陸各地と台湾の主要都市の間には、台湾と中国の民間航空機が日々、往来している。これら中台直行便は、2008年7月にチャーター便の形で始まり、翌2009年8月から定期便として人や貨物を直接運んでいる。 直行便ができる前は、中国と台湾を行き来する場合、香港や日本などを経由していたから、便利になった。ただ、この直行便は台湾海峡を横切る最短ルートを通らない。やはり敏感な空域だからだ。 そういう中で、中国大陸の沿岸を飛ぶ民間航空機が、中台の中間線に、より近いルートを飛ぶ。そのことについて、台湾では、南から北へ、北から南へ飛ぶ民間機が中間線を越えて台湾側に侵入する可能性が指摘されている。一方、中国政府の台湾担当部門はこう言い始めている。 “「台湾は中国の領土の一部であり、海峡における、いわゆる『中間線』なるものは、そもそも存在しない」” つまり「自分たち中国が台湾周辺の空域も、海域もコントロールしている」という姿勢が、今回の飛行ルート変更に、改めて示されたのだ。中国からすれば、「これまでは猶予を与えてきた」ことも、ジワジワとプレッシャーをかけていく、という宣言なのかもしれない。 中国側が変更した飛行ルートの幅は、わずか11キロメートル。傍目からすれば「わずかその程度」台湾側に近づくことになったが、台湾への心理的影響は少なくない。飛行ルートを台湾海峡の現状を変えることを狙っているのだろう。さらに、ここ数年は中国軍機が台湾側に侵入することが常態化している。
台湾新総統の就任までにさまざまな仕掛けか
次の総統の頼清徳氏への圧力といえば、太平洋の小さな島しょ国、ナウルが台湾と断交して、中国との国交を復活させた。これも、ナウルに対する中国の働きかけがあったのだろう。 台湾総統選が行われたのが1月13日。ナウルが台湾と断交すると発表したのがその2日後の1月15日。選挙結果に合わせストーリーが用意されていたのだろう。これも飛行ルートの変更と同一線上の話だ。「台湾は国際社会では正式には存在しないのだ」というアピールだろう。 頼清徳氏の総統就任式は5月20日に開かれる。各国はその就任演説の内容に注目するわけだが、中国はその内容に影響を与えようと、あと3か月あまり、さまざまな仕掛けを台湾に向けていくのではないだろうか。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。